映画の中のえん罪事件  NO.8


第12回

 時間の過ぎるのは早いもので、前回からもう既に何ヶ月か経ってしまいました。再開した途端にまた休止という訳でして、いや誠に面目ありません。 ・・・「 お許し下せいッ、お代官様 〜ッ!」 ・・・ ン?

 ところで、今回取り上げる映画は、トム・ハンクス主演のグリーン・マイル(1999)という映画です。原作は、言わずもがな<モダン・ホラーの旗手>スティーブン・キングの同名のベストセラー小説。そして監督は、既にこのシリーズ第2回目で取り上げた『 ショーシャンクの空に 』を撮影した新進のフランク・ダラボン監督。この監督は、今回がまだ2作目ですが、どういう訳かその2作ともがスティーブン・キングの原作を映画化したもので、尚かつどちらも<刑務所>を舞台にしているという超変わり種です。

 実を言うと、どうしても原作の世界が味わいたくて、映画より先に小説を読んでしまいました。この辺が、活字中毒患者の面目躍如(?)といったところでしょうか?

 話は変わりますが、前々回(第10回)では、<映画の中のえん罪事件>を態様別に「 偶然巻き込まれ型 」「 陰謀・被害者型 」そして「 中間型(折衷型) 」の3つに分類しました。そこで今回は、これを別な観点から分類してみたいと思います。つまり、その映画が<裁判>を基準として何時(いつ)の時点を捉えたものか、という観点から「 起訴前 」「 公判中 」「 判決後 」の3つに分類することができます。そして、この2つの分類を組み合わせて一覧表を作ると、次のようになります。

項    目

起  訴  前

公  判  中

判  決  後

偶然巻き込まれ型

 第 三 逃 亡 者

 白 い 恐 怖

 追いつめられて

− 

 ショーシャンクの空に

 トゥルー・クライム

 グリーン・マイル

陰謀・被害者型

 見 知 ら ぬ 乗 客  レッド・コーナー

 推 定 無 罪

 疑 惑 の 幻 影

− 

中間型 (折衷型)

 チェーン・リアクション

− 

 逃  亡  者

 これらの映画の中には明確に分類出来ないのもあるし、それにまだ12本の映画しか取り上げていないので、これをもってどうこう言うのはちょっと早計なのですが、現時点では空欄がいくつかあるにしても、「 比較的全体に散らばっているな 」という印象を受けます。― 今後、どの枡が埋められていくのか楽しみです。

 しかし良く見ると、「 公判中 」に分類されている映画が「 陰謀・被害者型 」に偏っているようにも見受けられます。これは私の勝手な解釈ですが、おそらく映画の場面がアクションの少ない法廷シーン中心となるため、第三者の陰謀を絡めることによって、より緊張感を高め、どうしても単調に成り勝ちな法廷シーンを引き締めているのではないでしょうか?

 その点から言えば、「 起訴前 」に分類される映画は、追いつ追われつの手に汗握るアクションシーンが多くなるため、その<原因>そのものはそれ程重要ではないのでしょうネ! また、「 判決後 」に分類される映画についても、<逃亡者>は例外として ― <刑の執行>自体に重点を置いているため、これも<えん罪>の原因となった事実をあまり重要視していないようです。

 ・・・と、ここまで書いて、また暫く時間が経ってしまいました。トホホッ! 実を言うと、私には「 未だにこの映画(グリーン・マイル)をどう捉えていいのか分からない 」というのも原因のひとつなのですが、・・・。

 

 さて、グリーン・マイルの話に戻りましょう。この映画の舞台は、1935年 ― スティーブン・キングはちょっと混乱していたのか、原作では1932年だったり1935年だったりしています ― のアメリカ南部(ジョージア州)の州立コールド・マウンテン刑務所(架空?)の死刑囚舎房です。この題名にもなっている『 グリーン・マイル 』という名前の由来ですが、ご存知ない方のために説明しておきますと、それはこの刑務所の通路 ― 死刑囚が、刑場に行くまでに最後に歩く通路(ラスト・マイル)が、くたびれた古いライム・グリーンのリノリウムの床だったことによります。

 物語は、ここにジョン・コーフィ(マイケル・クラーク・ダンカン)という1人の黒人死刑囚 ― 彼は、9才の双子の姉妹を強姦して殺害した罪(勿論えん罪)で死刑判決を受けていました ― が、送られてきたことから始まります。そして、この死刑囚舎房看守主任を務めていたのがポール・エッジコム(トム・ハンクス)という男で、この物語は、ジョージア州の老人ホームで余生を送る彼の回想という形で語られていきます。

― ところで余談ですが、原作ではコールド・マウンテン刑務所の所在地が明確には書かれていません。しかし、アメリカ南部の州でジョン・コーフィの事件が発生したトラピンガス郡の<テフトン>という町がジョージア州にあり、またこの映画のシナリオにも舞台は<ジョージア州>の片田舎と書いてあるので、それに間違いないとは思うのですが、何んと驚いたことに<囚人護送車>の横っ腹には、ルイジアナ州立刑務所コールド・マウンテン 』と大きく書かれているのです。 ― 現場の混乱(?)が目に見えるようですネ・・・!

 話は、また元に戻りますが・・・、この映画をご覧なった方なら、私が先程「この映画をどう捉えたらいいのか分からない」と言った意味をご理解頂けるかと思いますが、この映画は<とても暗い>し、<非常に残酷>な映画 ― 実際に3回も死刑シーンがあります ― なのですが、しかし見終わった後に不思議な<清涼感>というか、<安堵感>があるのです。それが、ジョン・コーフィという1人の死刑囚とポール・エッジコムという看守主任の不思議なキャラクターによるものなのは言うまでもありません。

 この映画の中で、ジョン・コーフィが登場するシーンも何か非常に意味ありげです。 ― シマシマの囚人服に身を包んだ何百人もの囚人が、炎天下で歌のリズムに合わせてつるはしを打ち下ろして作業をしている中、1台のレトロなフォードの<囚人護送車>が、埃を巻き上げながらやって来て、コールド・マウンテン刑務所の正門へと向かって行きます。そのリアサスペンションが異常な程下がっています。

 そして、護送車がEブロック(死刑囚舎房)の前で停まり、開かれた後部扉から巨大な2本の黒い足がニョッキリと出てきて、彼がその車から降り立つとサスペンションは元の状態に・・・。  ― 如何にも、クサイ・・・?

 ジョン・コーフィは、他を圧倒するほどの巨体 ― 身長は約2m、体重は126s位、肩幅は広くて胸板も厚く、全体に筋肉質 ― ながら目には焦点がなく、何処か途方にくれたような表情をしています。そして、頭髪をきれいに剃り上げた頭は、汗に濡れ見事な程の黒光り! ― そんな男が、手錠と足かせをつけられたまま、ふたりの看守に引き立てられて歩いて来ます。その看守のひとりは、片手にヒッコリーの警棒を持ち、大男の手錠を引っ張りながら何やら大声で叫び続けています。

『 デッドマン・ウォーキング(死人が通るぞ!) 』 ― 誰はばかることなく傍若無人に振る舞うこの小男こそ、後に数々の問題を引き起こすパーシィ・ウェットモア(ダグ・ハッチソン)その人なのでした。 ― どういう訳かこの人は、州知事の甥っ子なのです。

 ところで、このEブロック(死刑囚舎房)には、中央の通路を挟んで左右に3室ずつ、計6室の監房があり、ジョン・コーフィが入所して来た時には、通路の反対側の独居房にドラクロアが、そして同じ列の1つ間を置いた独居房にビターバックが収監されていました。ドラクロアは、フランス系の頭が禿かけた小男で、パーシィとは相性が極端に悪かった為に悲惨な最期を遂げます。ビターバックは、ウォシタ居留地に住むインディアン部族のかつては主席長老だった ― そのためにここではチーフとよばれていた ― とても物静かな男でした。

 この日、ジョン・コーフィは不思議なことを言います。― 「 どうしようもなかったんです、ボス。元通りにしようとしたけど、間に合わなかったんです。」 ― この言葉の意味するところは後になって判明しますが、この時点では全く不明です。

 そして、ビターバックの処刑日が近づいたある夜から、このEブロックには1匹のネズミが出没するようになります。後にドラクロアが芸を仕込み<ミスター・ジングルス>と名付けた頭のいいネズミで、彼もこの映画の中では重要な役割を担っています。

 さて、このコールド・マウンテン刑務所ではその当時、死刑は<オールド・スパーキー>と呼ばれていた<電気イス>で行われていました。そして、その執行日前には2〜3回の予行演習が、本人に気付かれないように行われるのが慣例になっていました。この辺の ― 完全に<儀式化>されている ― ところが、アメリカ人の<国民性>なのでしょうか? それに、前回取り上げた『 トゥルー・クライム 』という映画でもそうでしたが、アメリカでは必ず<立会人>が死刑執行に立会います。

※ 実際にあった最近の例では、オクラホマシティの連邦ビル爆破事件の主犯ティモシー・マクベイ死刑囚の死刑執行が今年6月11日にインディアナ州のテレホート刑務所(参照:同刑務所のHP)で行われましたが、この時も遺族や記者等20人が実際に立会っています。

 さて、また映画の話に戻りましょう。ビターバックの死刑執行が終わった何日か後に、また新しい囚人がこのEブロックにやって来ます。名前は、ウィリアム・ウォートン(別名:ワイルド・ビル)。左腕にビリー・ザ・キッドの入れ墨をした、凶暴でかなりイカレタ男でした。ジョン・コーフィは、この男が入所する直前に不安そうな声でポール「 用心しろよ! 」と注意します。まるで、これから起こることを全て予知しているかのように・・・。

 果たして、Eブロックのドアを開けて中に入ろうとした瞬間、それまで口許からヨダレを垂らして狂人を装っていたウィリアム・ウォートンが、一転反乱をひき起こします。突然奇声を上げたかと思うと、彼はディーン(看守)の首に手錠の鎖を絡みつけ、窒息させようとしますが、この時運良くブルータル(看守)が現れて事なきを得ます。

 この乱闘騒ぎの中で、ポールウォートンから股間に強烈なキックを喰らってしまいます。実はこの当時、ポールは生涯最悪の尿路感染症を患っていて、その激痛のあまり声も出せない有様でした。他の看守がいるうちは何んとか気力で堪えていましたが、誰もいなくなるとその苦痛に耐えられなくなって、うめき声を上げてリノリウムの床に突伏してしまいます。

 

1. ジョン・コーフィ <最初の奇跡>

 ジョン・コーフィは、マイルの床でうめいているポールを自分の監房の前に招き寄せると、矢庭に片手で彼の襟首を掴み、もう一方の手を彼の股間に当てがいます。突然の事態に驚いたポールは、慌てて腰の拳銃を取ろうとしますが不思議な力で押さえつけられ、体が完全に麻痺してしまったかのように何の抵抗も出来ません。そして、何かとてつもなく大きなエネルギーのようなものが彼の体を貫いて行き、それに呼応したかのようにマイルの電球が明るく輝くと突然火花を散らして破裂してしまいます。ポールの表情は、心地よい陶酔感に包まれているかのようです。

 気が付くと、それまで彼を散々苦しめて来た股間の激痛が嘘のように消えています。熱もありません。逆にジョン・コーフィはというと、ベッドに腰掛けて前屈みにゲホゲホと苦しそうに咳き込んでいます。そして、彼の口が大きく開かれるや否や、小さな羽虫の大群が一斉に吐き出され、宙を舞ってフッと消えてしまいました。 ― まるで白日夢を見ているようです!

「 俺が治したんだ 」と言うジョン。ポールは、只々あ然と彼を見つめるだけです。ポールは、今起こったことが現実かどうか確かめずにはいられなくなり、トイレに入るとやはり痛みは嘘のように消えています。次第に安堵感が彼を支配していきます。 ― しかし、いったい彼に何が起こったのでしょうか・・・?

 

2. ジョン・コーフィ <2度目の奇跡>

 ドラクロアの処刑日前日、Eブロックの彼の監房では<ミスター・ジングルス>の今後の処遇について、ポールブルータル(看守)を交えて3人で話合いをしていました。当のネズミは、その間もドラクロアが壁に投げて跳ね返ってきた糸巻をせっせと転がすことに専念しています。そこへ宿敵のパーシィ(看守)が・・・。

 ドラクロアが何度も壁に糸巻を投げている内に手元が狂い、その糸巻は鉄格子の間から飛び出してマイルに転がってしまいます。ネズミは、それとも気付かず夢中になって糸巻を追い掛けて行きます。その時、待ってましたとばかりにパーシィは、頑丈な黒い作業ブーツの踵でそのネズミを踏み潰してしまいます。本当にアッと言う間の出来事でした。ドラクロアが泣き叫ぶ中、涼しい顔でマイルを去って行くパーシィ

 <ミスター・ジングルス>は、血だまりの中でピクピクと死にかけています。悲嘆に暮れ、号泣するドラクロア。すると、斜向いの監房の鉄格子からジョン・コーフィが両腕を突き出して、「 俺にくれ! まだ間に合う。」と、また不可解なことを言います。ポールは、前回のこともあったので、ためらいがちにそのネズミを床からそっとすくい上げると、コーフィの手の上に載せます。

 すると彼は、そのネズミを鉄格子の中に引き入れ、もう一方の手をその上に優しく被せます。ドラクロアは、彼にしきりに哀願します。その場に居合わせた者全員が息を飲んで見守る中、コーフィネズミを包み込んだ大きな手に口を当て、ヒューッと鋭く息を吸い込みます。すると、不思議なことにコーフィの手が内側から明るく輝き出し、そのネズミの尻尾が彼の手の中で元気良く動き出したではありませんか!

 そしてコーフィは、再び喉に痰が絡んだような例のゲホゲホを始め、その後はまた前回と同じくあの不可解な<ウンカ>のような黒い固まりを大きく開いた口から一斉に吐き出しました。他の者は声もなく只あ然として、その羽虫の大群が白くなって宙に消えて行くのを見守っています。遂にネズミはまた生き返り、鉄格子の間を元気に走り抜けてドラクロアの監房へ駆け戻りました。

 

3. ジョン・コーフィ <3度目の奇跡>

 その当時、このコールド・マウンテン刑務所の所長ハル・ムーアズの妻メリンダは、悪性の脳腫瘍に冒され酷く苦しんでいました。そして彼は、末期症状が現れた悲惨な妻の姿に心を痛めていました。そこでポールが妻のジャニスと共にメリンダを見舞った翌日、気心の知れた数人の看守仲間を自宅に集め、密かな計画を打ち明けます。― すでにこの時点で、「 絶対にコーフィは無実だ 」という確信がポールにはありました。

 決行の夜。秘密を保持するために、まずウォートン(死刑囚)にモルヒネ入のコーラを飲ませて眠らせ、パーシィ(看守)には拘束衣 ― 彼のドラクロアに対しての酷い仕打ちに対する懲罰の意味 ― を着せて拘禁室に放り込んでしまいます。そして、ディーン(看守)に後のことを任せると、ポールブルータル(看守)とハリー(看守)と3人でコーフィを密かに刑務所の外に連れ出します。 ― 何故かこの時、眠っていたはずのウォートンが突然目を覚まし、鉄格子の間から白い腕を突き出してコーフィの手首を掴み、皆んなを驚かせます。そして、この時コーフィに何かが起こります。

 4人は、Eブロックにある刑場の死体搬出用のトンネルをくぐり抜けて塀の外に出ると、少し離れた森の茂みに隠してあったトラックに乗り込み、一路ムーアズ所長の自宅へ。・・・そうなのです。奇跡を2度も目の当たりにしたポールが、自らの危険を省みずメリンダのために密かに企てた計画がこれでした。

 しかしながら、当然ムーアズ所長にも事前に知らせる事はできなかったために、危うい場面もありましたが、結局コーフィは、寝室のベッドに横たわるメリンダと対面することが出来ます。その時の彼女の姿は驚くほど変わり果てていて、以前の面影など全くありませんでした。その上に異常に興奮していて、突然寝室に入って来た男達を口汚く罵(ののし)ります。

 ところが、コーフィが彼女の傍に近づくと、その険しかった表情が次第に和らぎ、目付も穏やかになります。コーフィはゆっくりと彼女の上に身を屈め、額に優しくキスをします。すると、部屋の明かりが一段と輝きを増します。そして、彼女の唇に自分の唇を暫く押し当てた後、コーフィが身を離すと不思議なことに彼女の口の中が明るく輝き出します。そして、それに呼応したかのように階下の居間に掛かっていた振り子時計が止まり、そのガラスにヒビが入ったかと思う間もなく、突然部屋全体が地震のように激しく揺れ出します。

 ふたりの間には、熱く輝くエネルギーのようなものが通い合い、コーフィの口に何か得体の知れない物 ― おそらくメリンダの病巣に巣くう何か悪しきもの ― が吸い取られていきます。すると、メリンダの顔色が嘘のように明るくなり、見違えるほど若々しくなります。一方、コーフィは又もや苦しそうに咳き込みますが、しかし何故か今度は口から羽虫の大群を吐き出しませんでした。

 

4. ジョン・コーフィ <罪な置き土産>

 メリンダに信じられないような<奇跡>をもたらした4人は、何事もなく無事にEブロックに帰還することが出来ます。最後の仕上げは、パーシィに口止めさせること。声を出さないように口に貼ったテープを剥がし、諄々と諭して拘束衣を脱がしてやりますが、彼は又何か問題を起こしそうな様子です。彼は身繕いをして、不機嫌ながらも何とか威厳を保とうとします。

 パーシィは、ホルスターのバックルを留めながら拘禁室を出ると、不注意にもコーフィの監房の近くを通ってしまいます。と、突然コーフィの太い片腕が鉄格子越しに突き出され、むんずと首を掴まれたかと思うと彼は強い力で手元に引き寄せられます。パーシィの悲鳴にポール達は拘禁室を飛び出して来て2人を引き離そうとしますが、何も出来ないままにコーフィの口から吐き出された羽虫の大群は、パーシィの口の中に吸い込まれていきます。

 コーフィは、事が済むと力尽きてその場に座り込んでしまいます。パーシィは、ただ呆然自失の状態でふらふらとマイルを歩いて行き、ウォートンの監房の前まで来ると立ち止まって中を覗き込みます。ウォートンは、彼に気付くと口汚い言葉で激しく罵(ののし)ります。

 パーシィは、しばらくの間じっと彼を見ていますが、突然腰の拳銃を抜くとウォートンに向けて弾がなくなるまで撃ち尽くします。6発の弾全てを胸に浴びたウォートンは、撃たれた勢いで独房の壁に叩き付けられると血を流しながら滑り落ちていきます。彼の死顔には、唖然とした驚愕の表情が浮かんでいました。

 ポール達はパーシィに組みつき、その場に押し倒して取り押さえます。すると、抜け殻のようになってしまったパーシィの口からは、羽虫の大群が・・・。後ろを振り返ったポールに、「 悪い奴らに罰を下したんだ 」と言うコーフィ。しかし、ポールには何故ウォートンにも罰が下されたのか理解出来ません。コーフィは鉄格子から手を差し出すと、彼にその手を掴むように言います。そうすれば全てが分かると・・・。そして、「 俺の一部をあんたにあげたいんだ。俺からの贈り物だよ 」とコーフィ。

 恐る恐る手を延ばし、コーフィの手を握るポール。すると、コーフィの不思議な力が彼にも伝わり、ポールは事の全てウォートンの卑劣な犯行の一部始終 ― を見てしまいます。そして、又もやマイルの電球は、一段と明かりを増すと火花を散らして次々と割れていきます。ウォートンに手を掴まれたあの時、コーフィはその手を伝って彼の犯行の全てを見てしまったのでした。真犯人はウォートン、・・・ そうなのです! やっぱり、コーフィは無実だったのです。

 

5. ジョン・コーフィ <遙かなる旅立ち>

 ポールは、<真実>の全てを知ってしまった上に、自分には何も為す術(すべ)のないことに思い悩みます。何んとか無実のコーフィを救うことが出来ないか、と色々な方法を考えます。場合によっては、コーフィの脱獄に手を貸す事までも・・・。しかし、どうにもなりません。

 コーフィの処刑が2日後に迫ったある日、ポールブルータルは彼の監房を訪れ、彼が本当は何を望んでいるのか、それについて自分達にできる事が何かないかと尋ねます。「 何を言おうとしているのかは分かるけど、何も言わなくていい 」というコーフィに、次のように言って自分の苦悩を吐露するポール。

 「 最後の審判の日に、神の前に立たされて『 真の奇跡を行う私の使いを何故お前は殺したのだ? 』と神に尋ねられたら、俺はどう答えたらいいんだ。ただ『 職務だったから 』と・・・? 」

 するとコーフィは、ポールの手を取って「 それなら、『 私は親切な行いをしたんだ 』と答えればいい。俺にはあんたが苦しんでるのが感じられる。だけど、もういい。俺は、これ以上生きていたくないんだ 」からと・・・。

 「 俺は疲れたよ、ボス。雨の中のスズメみたいに、たったひとりで旅をするのに疲れてしまった。共に旅をし、そして何処から何処へ、なぜ彷徨うのかを教えてくれる友もいない。互いに卑劣なことをやり合う人間たちには、疲れてしまった。毎日のように、世界中の苦しみを感じたり聞いたりすることに疲れたよ。いつも頭の中にガラスの破片が突き刺さっているみたいだ。・・・分かるかい?」 ポールは、涙をこらえながらコーフィの話を聞いています。

 そんなコーフィのたっての望みは、<活動写真>を見ること。ガランとした刑務所の講堂でコーフィの為に映画の上映会が開かれます。その映画は、30年代のアメリカ・ミュージカル映画の最高傑作のひとつされている『 トップ・ハット 』で、フレッド・アステアジンジャー・ロジャースが、歌いながら軽やかに踊りまくります。

 コーフィは、初めて見る<活動写真>の華やかさに目を見開き、口をポカンと開けて見とれています。そして、ウットリと眺めながら「 彼らは天使だよ! 天国にいるような天使だよ 」と、思わず呟きます。

 遂に訪れた最後の夜。処刑室には大勢の人が詰めかけています。コーフィは、自分を憎んでいる人間が沢山いることを感じとり、思わず足がすくんでしまいます。<真実>を知るものは一握りの看守だけ。敵意に満ちた視線を一身に浴びながら<オールド・スパーキー>に座るコーフィ。ディーンは、立会人に背を向けて脚の締具を留めながら涙ぐんでいます。

 頭からすっぽり頭巾を被せられようとした時に、「 暗闇が怖いから被せないで欲しい 」と懇願するコーフィ。その最後の願いを聞き届けてやるポール。― 思わず目頭が熱くなります。

 みんなが固唾を飲んで見守る中、ポールにはどうしても最後の命令が下せません。思わずコーフィの傍らに歩み寄り、彼の手を握るポール。この時コーフィの思いを深く感じ取ります。そして遂に、ポールは生涯で最も辛い<言葉>をやっとの思いで発します。― 第2スイッチ、オン・・・。

 

6. ジョン・コーフィ <最後の奇跡>

 ― 時は1999年、ジョージアパインズ老人ホームのサンルームにて・・・。それまで激しく降っていた雨は、既にあがっています。

 現在の年老いたポールが、これまでずっと心に秘めてきたジョン・コーフィの物語を友達のへレインに語って聞かせています。へレインは、彼の話の余りのすごさに只あ然とします。ポールの話を信じようとはするものの、ひとつ理解出来ないことがありました。「 1935年当時、既に成長した息子がいた 」という事は、現在の彼は? ― 何んと、108才!

 ポールは、まだ信じられないという面持ちでいるへレインを、森の中の<物置小屋>に案内します。そして、その小屋の中で彼が指差した場所を見ると、埃だらけの床の上に古い葉巻の箱が・・・。

 「 おい、じい様、目を覚ませよ 」とポール。その言葉にヘレンは、一瞬息を呑みます。まさか・・・? すると、灰色の毛に覆われたヨボヨボのネズミが箱から顔を出します。ポールが跪いて片手を差し出し、再び声を掛けると箱の縁を乗り越えて外に出てきました。これがあの<ミスター・ジングルス>・・・。 ― そんな筈は・・・?

 ポールが糸巻を置いてやると、その年老いたネズミは懸命に転がそうとします。彼は、昔覚えた芸を今でも忘れてはいませんでした。褒美にトーストを千切ってやるポール。 ― 又もやジョン・コーフィの奇跡が・・・。

 ドラクロアが処刑された夜、コーフィは彼の苦しみを自分の監房の中で感じました。その時彼の手の中にいた<ミスター・ジングルス>は、彼の不思議なパワーのほんの一部を授かったのでした。そして、ハプニングのあったあの夜に<贈り物>としてコーフィの一部を貰ったポール。

 この映画の最後を飾るポールの言葉が、とても心に染みます。「 ・・・人間は皆、自分の<グリーン・マイル>をそれぞれの歩調で歩いています。 ・・・死は、いつか必ずやって来る。それに例外はありません。だが、神よ! 私には<グリーン・マイル>が余りにも長く思えるのです。」

― ジョン・コーフィは、本当に<キリスト>の再来だったのでしょうか・・・? そして人間は、また同じ過ちを犯してしまったのでしょうか・・・?

( 2001. 9  T.Mutou )

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