ひとり言 映画の中のえん罪事件 NO.6


第10回

 個人的な都合で、このシリーズ(?)は暫く休ませて頂きましたが、また誰に断りもなく勝手に再開しましたので、宜しくお付合い下さい。これまで、<映画の中のえん罪事件>という大それたテーマでやってきたのですが、もう今回で第10回目を迎えてしまいました。私としましても、こんなに永く続くとは思ってもみませんでしたのでとても驚いています。

 今までこのシリーズで扱ってきた映画の中には、厳密に言えば<えん罪事件>という定義からは外れるものもあるかと思いますが、あまり狭い枠に捉(とら)われずにやっていきたいと思いますので、宜しくお願い致します。

 ところで、映画の中での<えん罪事件>の取り扱われ方を、私なりに分類させて頂きますと、次の3つになるようです。

1. 偶然巻き込まれ型
2. 陰謀・被害者型
3. その中間型( 折衷型 )

 「 偶然巻き込まれ型 」というのは、例えば『 ショーシャンクの空に 』の中のアンディーように、殺人の動機があって、かつアリバイがなかったが為に犯人にされてしまったようなケース。これに対して「 陰謀・被害者型 」というのは、例えば『 レッドコーナー 』の中のジャックのように、最初から悪意ある陰謀の渦中にあって、必然的に濡れ衣を着せられてしまったようなケース。そして最後の「 中間型 」は、例えば『 逃亡者 』の中のリチャードのように、偶然殺人現場に居合わせてしまったが為に逮捕され、その後<真犯人等>の陰謀によって次第に追い込まれて行くようなケースが該当します。

 さて、今回とりあげる記念すべき(?)再開第1弾は、あまり肩の凝らない映画ということで、キアヌ・リーヴス主演の チェーン・リアクション(1996)という映画を選んでみました。この映画も、上記分類に当てはめれば 中間型 になるかと思います。

 この映画のオープニングは、シカゴのかつては繁栄を誇ったが、今では薄汚れた古い工業地帯の空撮で始まります。石油化学コンビナートの煙突から吐き出される白煙によって、辺り一帯はスモッグに覆われています。そして、その象徴的なシカゴの街の風景とはあまりにも対照的に、シカゴ大学アリステア・バークレー教授の革新的な講演がホールで行われています。この講演の中で教授は、見方によっては荒唐無稽とも言える新しいテクノロジー『 クリーンエネルギー 』の未来を語りますが、そのテクノロジーがその後の数々の事件の発端となってしまうのです。

 この冒頭のシーンでは、この映画の主人公エディ・カサリヴィッチ(キアヌ・リーヴス)が、何やら装置の一部を組み立てている様子がカットバックで挿入されています。何気ないシーンですが、この映画の中での彼の果たす役割を暗示する、とても印象的なシーンです。

 次に場面は変わり、今では工場の大半が操業を停止して、静まりかえっているシカゴの街の中にあって、むしろ活況を呈していると言える工場内のシーンになります。ここがこの事件の発端となる、バークレー教授が率いる『 シカゴ大学水素エネルギープロジェクト 』の本拠地となっている施設なのです。ここで教授は、ほんのわずかなエネルギーで水を水素と酸素に分解する研究 ― 通常の電気分解では分解に要するエネルギーの方が、分解によってできた元素から得られるエネルギーより大きい為に意味をなさない ― をしているのでした。

 このテクノロジーが完成すれば、今まで石油に依存していた人々の日常生活のみならず、世界経済そのものを根底から覆すことにもなる画期的なもので、その為に<世界制覇>を企む謎の組織に狙われる結果となってしまったのです。

 教授は、既にその<水素発生装置>をほぼ完成させていましたが、装置全体が不安定で長時間稼動すると危険な状態に陥ってしまうのでした。原因が分からずに、あと一歩のところでの足踏み状態でしたが、このプロジェクトにエンジニアとして参加していたエディが、自分のロフトでその装置を安定させる<周波数>を偶然に発見し、『 ソノルミネセンス 』の実験を成功に導きます。

 実験成功を祝ってのパーティが開かれ、みんながシャンパンを飲んで盛り上がっている中、不可解にも別室ではバークレー教授と財団理事のシャノン(モーガン・フリーマン)が口論していました。実は、これまでシャノンの属するムーア財団は、バークレー教授のこのプロジェクトに多額の資金援助をしてきましたが、この夜教授が、この画期的な発明の実験データをインターネットで早速公開しようとしたことに異論を唱えたのでした。

 「今早急に発表すれば、世界経済は大混乱に陥る」というのがシャノンの言い分ですが、シャノンとしてみれば無償でこの研究成果を発表されたのでは、これまでの投資がフイになってしまいます。しかし教授は、純粋にロマンに生きる男でした。「水素エネルギーは究極のクリーンエネルギーなので、これが実用化されれば環境問題も解決するし、しかも原料の水は世界中何処にでもあるので、限られた石油資源を巡る各国間の争いはなくなる上、全ての人々に無償で提供することによってこの世から貧困を永遠に追放することができる」と本気で考えていました。それが災いしてしまいます。

 パーティが終わり、プロジェクトのメンバーが帰宅した後、教授とこの開発計画のマネージャーで化学者のルー・チェン教授とがラボに残って、シャノンには内緒でインターネットで情報公開しようとしますが、その準備をしている時に謎の男たちに襲われてしまいます。

 エディは、物理学者でメンバーのひとりのリリー・シンクレアを自宅まで送り届け、ラボに置いてきたバイクをとりに歩いて戻ってくる途中で、不審な車とすれ違います。バイクの所まで来ると警報機が盛んに鳴り響いていたので、エディは慌ててラボに飛び込んで行きます。すると、床には頭にビニールの袋を被せられたバークレー教授が横たわっていました。人工呼吸をするエディ。しかし、教授は既に帰らぬ人となっていました。

 装置は、狂ったように激しく振動し、今にも爆発せんばかりになっていて、停止させることも不可能な状態でした。エディは、バイクに跨ると一目散にラボを後にします。数ブロック走ったところで、仕掛けられていた爆弾が爆発。それが、ラボに溜まっていた大量の<水素>に引火したために凄まじい大爆発が起こります。瞬間、閃光がほとばしり、それが同心円状に広がって行く。そして、雷鳴のような激しい大音響が辺り一帯にとどろく。そして、あたかも核爆発の様なキノコ雲。炎が塊となって次々と付近の建物をなぎ払い、埃を巻き上げながらエディに襲い掛かります。

 爆風で吹き飛ばされエディは、バイクから転倒したまま凍った路面を滑って行き、幸運にも窪地に投げ込まれます。直後に熱風がエディの頭上を吹き抜けていき、車や建物の残骸がすぐ近くに落下してきましたが、奇跡的にも助かります。窪地から顔を出して見ると、ラボがあった辺りは一面火の海で、付近一帯の建物はすべて倒壊していました。

 翌朝、まだ煙がくすぶり続けている焼け跡では消火活動が続き、市警察による現場検証が行われています。至る所に瓦礫の山。それは、昨夜の爆発の凄まじさを物語っています。そして、マスコミの取材陣がおしかける中、FBIの捜査も開始されます。

 FBIは、まず行方不明になっているチェン教授に注目します。捜査官たちが彼のアパートを捜索すると、部屋には衣類が散乱し、慌てて荷造りをしたような跡がありました。FBIの彼に対する疑惑は、一気に高まって行きます。そして、バークレー教授宅も家宅捜索。そんな中、3階に間借しているリリーの部屋に、チェン教授からのFAXが送られて来ます。「残りの実験データを持って、上海に来てくれ」という内容でしたが、それは明らかに他人の筆跡でした。

 またエディは、過去に他の大学のラボで実験中に爆発事故を起こして、退学処分を受けたという前歴がありました。その情報をCIAから入手したフォード捜査官は、部下にエディのロフトも捜索させます。すると彼の部屋からは、スパイでしたと言わんばかりに<衛星送信機>と多額の<現金>が発見されます。

 ここへ来て、何者かの陰謀によって罠にはめられたことを察知したエディリリーは、姿を隠そうとします。FBIは、3人を重要参考人として全国に指名手配します。次第に追い詰められて行くふたり。

 エディは、ユニオン駅に向う途中で警察に発見され、シカゴ川にかかるハネ橋ミシガン・アベニュー橋に追い詰められますが、警察とFBIの裏をかいて無事脱出。そして、潜伏先からシャノンにかけた電話がFBIに逆探知されて、マディソンの天文台に追い詰められるエディリリー。ここで不思議なことが起こります。ふたりを屋上に追い詰めた州警官が、偽装された警察のヘリコプターから狙撃 ― これよってふたりに警官殺害の嫌疑もかかる ― されてしまうのです。この時ふたりは、別の組織からも狙われていることを悟ります。

 追っ手から逃れるために潜り込んだ湖畔の別荘で2人の殺し屋を ― 余りにもあっけなく 倒した後、ふたりはシャノンに連絡をとります。そして、待ち合わせ場所となったスミソニアン博物館での追いかけっこ・・・。この時、シャノンもその謎の組織の一員だということが判明します。エディは、何とか追っ手を振り切りますが、リリーは捕まり一味によって何処かに連れ去られてしまいます。

 エディは、リリーを連れ去った車のナンバーからその場所を突き止め、バージニア州にある<C-システム>という巨大な秘密の地下施設に潜り込みます。ここには、驚いたことにバークレー教授が作った装置と全く同じものがあり、チェン教授もそこに監禁されていました。実はこの組織の背後にはCIAがいて、シャノンは国家の安全保障という名のもとに秘密活動をしていたのです。そして、この組織のもう一人のボスで悪党のコリヤーという男がシャノンと主導権争いをしていて、一連の騒動はこの男が仕組んだものでした。

 ところで、この地下施設にある装置も教授の装置と同じ問題を抱えていて、長時間安定稼動させることが出来ないでいました。エディは、リリーチェン教授を救うために、実験室に誰もいなくなってから密かに装置を完成させます。翌日、突然実験の成功を知らされたシャノンが、何か釈然としないものを感じながら、その実験データの記録を教授のそれと比較するためにオフィスに戻ると、パソコンに向っているエディがいました。実験の成功がエディの仕業だと悟り、納得するシャノン

 『 ソノルミネセンス実験 』の全データと引き換えに3人の身の安全を要求するエディシャノンはその要求を飲みますが、世界制覇を企むコリヤーは拒否。秘密保持のために3人を亡き者にしようとします。それを聞いたエディは、パソコンのキーを叩きます。すると、インターネットで実験データの転送が始まり、すべての装置が突然制御不能に陥ります。エディが危機を予想して、そのようなプログラムを組み込んでいたのです。

 コリヤーは、エディに装置の暴走を止めさせようと、見せしめにチェン教授を銃殺しますが、研究者のひとりが装置の電源を切った為に完全に制御不能となってしまいます。またもや高まる大爆発の危険。エディリリーをそこに閉じ込めたまま、他の人間は全員そこを脱出。地下施設に響き渡るけたたましいサイレンの音。結局、絶体絶命の中にあってもエディは機知を働かせ、危機一髪のところでリリーを地下施設から救出します。その爆発で地下施設は完全に消滅し、地上にはエディから緊急通報を受けたFBIフォード捜査官の姿が ・・・ 。

 この映画の中で、フォード捜査官エディの過去を詳しく調べ、教授と写っているビデオテープの映像から、教授を殺害しラボを爆破した犯人ではないと確信します。闇の組織によって仕組まれた状況証拠は、エディリリーにとても不利なものではありますが、一流の捜査官としての<勘>が、そこから真実を嗅ぎ取っていたのです。

 布川事件の供述調書を読んでいると、当時の捜査官には刑事としてのが少しも働いていないのではないかと疑わざるを得ません。十数回の取調べの中で、その度に捜査官の言いなりに矛盾する<自白をするふたり。そして、現場をまるで知らないとしか言いようのない供述内容・・・。彼らは、その事に何の疑問も抱かなかったのでしょうか・・・? そこには、真実を追究する<捜査官の姿はなく、証拠をでっち上げてでも誰かを生贄にせずにはいられないという妄執しか感じられません。

( 2000.11  T.Mutou )

next back


Home Profile History Action News Poem