えん罪事件簿 2002年版
※ 指紋鑑定ミスで誤認逮捕 (2002.2.17)
2000年8月、埼玉県入間郡の会社からパソコンなどを盗んだとの疑いで埼玉県警に<誤認逮捕>された川崎市の少年とその両親が、国家賠償法に基づいて埼玉県に慰謝料など2486万円の支払いを求めていた訴訟が、横浜地裁川崎支部でこのたび和解が成立する見通しとなりました。以下、2月18日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。
訴状によると、「 現場に残されていた指紋が一致したことが決め手 」とされて、少年は埼玉県警に窃盗容疑で逮捕され、その後「 横浜地裁川崎支部で保護観察処分 」となりましたが、「 少年側は独自に民間の<指紋鑑定所>に依頼して得た鑑定書を提出し、東京高裁に抗告。高裁は『 (現場に残されていた指紋は)少年の指紋ではない 』として(一審の)処分を取り消して同支部に差し戻し 」、昨年2月に少年は不起訴処分になりました。
「 埼玉県警は、昨年1月にミスを認めて謝罪。同3月には指紋鑑定を誤った警察職員や当時の鑑識課長ら5人を本部長訓戒などの処分 」にしています。和解案は、「 県が和解金400万円を少年側に支払うという内容で、県は2月議会に議案として提出する 」とのことです。
※ 大崎事件に再審開始決定 (2002.3.26)
鹿児島県大崎町で1979年に農業中村邦夫さん(当時42才)が殺害されたとされる『 大崎事件 』で、殺人・死体遺棄罪で懲役10年の刑が最高裁で確定し、服役を終えた農業原口アヤ子さん(74才)ら2人の再審請求に対し、鹿児島地裁は26日、再審開始を決定しました。以下、3月26日付朝日新聞(asahi.com)と日経新聞(NIKKEI NET)の記事から ・・・。
「 再審を請求していたのは、原口さんのほか、死体遺棄罪で懲役1年の刑を受けた服役後、無実を訴えたおいの善則さん(故人)の母親のチリさん(73才) 」の2人。
1980年3月の鹿児島地裁判決は、「『 頸椎(けいつい)前面に出血があることから首に外力が働いた。他殺による窒息死と想像する 』とする城哲男・鹿児島大医学部教授(当時)の<鑑定書>と、共犯とされた原口さんの夫ら3人の殺害・死体遺棄を実行したとする<自白>を根拠に 」原口アヤ子さんと原口さんの夫の長兄及び次兄の3人が「 邦夫さんの首をタオルで絞めて殺し、おいも加わって遺棄した 」と認定していました。
「 再審請求審で弁護側は、池田典昭・九州大医学部教授の鑑定書などを提出。首を絞めたとする確定判決の殺害方法を裏付ける痕跡はなく、死因として考えられるのは頸椎の損傷だけで、事件当日に自転車ごと溝に転落して、頸椎を損傷した事故死の可能性がある 」と主張。
さらに「自白の信用性については、共犯者とされた3人はいずれも知的障害があり、捜査当局に迎合的な<うその自白>をしたと主張し、善則さんらの無実を訴える証言などを新証拠として提出して」いました。
鹿児島地裁の笹野明義裁判長は、今回の「 (再審開始の)決定理由の中で、共犯者らの自白の信用性について『 捜査官による強制、誘導があったことがうかがわれ、信用性に疑いがある 』」とした上で、「 死因については、『 絞殺を示す(遺体の)内部所見もみられない 』などと 」指摘した。
原口アヤ子さんは、「 捜査段階から否認を続けたが、一審で懲役10年の刑を受け、最高裁で刑が確定 」し、服役していました。今回の再審開始決定は、<布川事件>をはじめ同様の冤罪に苦しむ人達にとっても<一条の光>が差した出来事だと言えます。
但し、残念ながら検察側はこの決定に対し<即時抗告>をする方針だそうで、手放しでは喜べません。検察側のそのような行為は、明らかに冤罪被害者にとって<最後の救済>への道を閉ざしてしまうものと言えます。ぜひ<再審>の場で争って欲しいものです。
※ 窃盗事件で逆転無罪判決 (2002.10.8)
2000年6月にJR品川駅西口改札わきの路上で、横にいた人の鞄(かばん)から現金10万円を抜き取ったとして窃盗罪に問われた男性元会社員(32才)に対する控訴審判決が7日、東京高裁でありました。以下、10月8日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。
東京高裁の「 中川武隆裁判長は『 隣で寝ていた男性を、一緒に飲んでいた会社の先輩と思い込んでお金を借りただけ 』とする元会社員の主張を認め、懲役1年6カ月執行猶予3年とした一審・東京地裁判決を破棄し、無罪を言い渡し 」ました。
この事件は「 判決によると、元会社員は隣の男性を先輩と勘違いし、承諾を得たつもりで 」鞄(かばん)からタクシー代を取り出して、「 数歩歩いたところで警察官に現行犯逮捕された 」ものです。
「 弁護人によると、(この)元会社員は捜査段階から一貫して(犯行を)否認 」しており、「 起訴後に(それまで)勤めていた都内の大手コピー機会社 」を退職することを余儀なくされています。
※ 草加事件、民事の差し戻し控訴審で"無罪判決" (2002.10.29)
1985年7月に埼玉県草加市で女子中学生(当時15才)が殺害された事件で、その被害者の両親が、少年審判で「有罪」にあたる処分を受けた少年の親たちに損害賠償を求めた民事訴訟の差し戻し後の控訴審判決が、29日に東京高裁でありました。以下、10月29日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。
この判決で「 矢崎秀一裁判長は、『 捜査段階の自白は信用できない 』と述べ、元少年らによる犯行との見方を否定 」した上で、「 一審・浦和地裁(現さいたま地裁)判決を支持し、原告側の控訴を棄却 」しました。これにより、少年審判と民事訴訟では、事実認定について全く相反する結論を出したことになります。
この訴訟については、1994年11月に二審の同高裁が「 元少年らの犯行と認めた上で、約4600万円の少年らに命じたが、最高裁が2000年2月、『 自白に信用性を認めた二審の判断過程には誤りがある 』として判決を破棄し、審理を差し戻していた 」経緯があります。
「 この事件では、元少年らの犯行を裏付ける直接的な証拠が<自白>しかなく、少年審判で元少年らに少年院送致の保護処分が確定した後も、民事訴訟の場で元少年らの捜査段階の<自白の信用性>が争われて 」きました。
矢崎裁判長は、判決理由の中で「 被害者に付着した唾液(だえき)や毛髪などの血液型がAB型なのに元少年の中にAB型がいないことから、『 犯行が少年ら以外の、AB型の者によるものではないかとの疑念がある 』と指摘。自白の中に秘密の暴露がなく、供述に不自然な点があることなどを挙げ、『 少年らの自白は信用性に欠けるもので、供述調書は信用できない 』と結論づけた 」上で、「 虚偽の自白がされた理由について(も)検討(を加え)、『 疲労や持病が重なったほか、警察官の示唆、誘導によって迫真性のある虚偽の自白が創作されたことも十分考えられる 』と述べ、捜査のあり方に疑問 」を呈しています。
この<自白の信用性>をどう捉えるかによって結論が分かれ、この民事訴訟ではその点を巡って判決が当初紆余曲折していましたが、最高裁の差し戻し後は、<自白の信用性>を否定する方向に固まってきたように思われます。
なお、この判決を受けて、「 遺族側の代理人は『 判決は不服だ。今後のことは判決内容を検討のうえ、遺族らと相談して決定したい 』とするコメントを発表 」しています。
その後の新聞報道によると、原告側は、11月11日に最高裁に上告することに決定したとのことです。
※ 放火未遂事件、二審でも無罪判決 (2002.11.12)
1999年8月に宮城県中田町で民家に放火しようとした等として、現住建造物等放火未遂と器物損壊の罪に問われ一審で無罪判決を受けていた型枠大工の藤里直樹被告(29才)に対する控訴審の判決公判が、12日仙台高裁で開かれ、検察側の控訴を棄却する判決が言い渡されました。以下、11月12日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。
仙台高裁の松浦繁裁判長は、判決理由の中で「『 目撃者の証言や被告の自白は信用性に疑いがある 』とし 」、また「 一連の捜査について『 現場検証や証拠収集もおざなりで、捜査官の姿勢としては安易でずさんとしか言いようがない 』と 」の厳しい指摘をしています。
さらに「 松浦裁判長は、被告の自白について『 捜査員による誘導が認められる。記憶に基づくものではなく、整合性や統一性がない 』と指摘 」した上で、「 目撃証言についても『 警察の歓心を買おうと虚偽の供述をした疑いがある 』と述べ 」ています。
事件は、1999年8月13日未明、藤里直樹被告が灯油の染みこんだ新聞紙にライターで火をつけ、同町民家の軒下にあった廃材に放火しようとしたとして、同県警に現住建造物等放火未遂で逮捕され、その後、この放火未遂と、同県迫町の駐車場で同年4月に乗用車のタイヤにライターで火をつけたとする器物損壊の罪で起訴されたものでした。この事件でも、同被告は取り調べの段階では当初これらの犯行を認めていましたが、公判では一転して無罪を主張していました。
一審の仙台地裁は、『 自白を裏付ける客観的証拠はない。(捜査機関による)事件ねつ造の疑念、証拠の偽造の指摘を完全には排斥できない 』などとして、懲役5年の求刑に対し、無罪を言い渡していました。
二審判決は、原審の判断をほぼ踏襲するもので、捜査官の<現場検証>や<証拠収集>のやり方のみならず、目撃者の<証言>や被告の<自白>についても、今までのような先入観にはとらわれず、その内容を厳しく吟味するようになった点は、とても評価できると思われます。
この判決に対し、「 仙台高検の伊藤正・次席検事は『 遺憾な判決だ。判決内容を詳細に検討し、今後の対応を決めたい 』と 」述べているそうですが、検察側もそのようなメンツにはとらわれず、<起訴>の段階でその内容を厳しくチェックして、時間の浪費としか言えないような無意味な<裁判>を1つでも減らす努力をすべきであり、<時代>は正にそのような体質改善を求めているのでは ・・・ 。
※ 無罪確定女性に刑事補償決定 (2002.11.21)
1984年に札幌市豊平区の小学4年生(当時9才)が行方不明となり、遺骨が見つかった事件で、殺人罪に問われ、二審で無罪判決が確定した元飲食店従業員の女性(47才)に対し、札幌地裁は21日までに未決勾留(こうりゅう)に対する刑事補償等の支払いを認める決定をしました。以下、11月21日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。
この「 女性は、1998年11月に逮捕され、一審の札幌地裁で無罪判決を受けて昨年5月に釈放され 」ており、「 今年4月、この間の928日分について、1日あたり1万2500円、計1160万円と、裁判費用の請求をしていた 」もので、札幌地裁の遠藤和正裁判長は、この請求を受け、「 未決勾留(こうりゅう)に対する刑事補償約930万円と裁判費用250万円の支払いを認める決定 」をしました。
※ 痴漢冤罪事件、控訴審で逆転無罪 (2002.12.5)
2000年12月 に西武新宿線内で専門学校生の女性(当時19才)に卑猥(ひわい)なことをしたとして、強制わいせつの罪に問われた東京都東村山市の元会社員(39才)に対する控訴審の判決公判が5日、東京高裁で開かれ、無罪判決が言い渡されました。以下、12月5日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。
東京高裁の仙波厚裁判長は、判決理由の中で「 専門学校生の供述の信用性について『 具体的かつ自然で、わいせつ行為は行われた 』として被害 」事実を認定した上で、「 専門学校生が当時、裸眼視力が0.2〜0.3なのにコンタクトレンズをつけていなかった点で『 犯人の識別に良好な状況ではなかった 』と指摘。さらに『 犯行時に犯人を視認しておらず、当時ありふれた服装だった元会社員を犯人と誤認した可能性が高い 』と 」述べ、懲役1年2カ月を言い渡した一審・東京地裁判決を破棄し、改めて無罪判決を言い渡しました。
事件は、男性が「 2000年12月 5日朝、同線鷺ノ宮〜高田馬場駅間で専門学校生の右手首をつかみ、10分以上にわたって自分の陰部にこすりつけた 」というもので、被害者の「 専門学校生は、電車を降りた高田馬場駅のホームで元会社員を呼び止め、警察に引き渡したが、(その)元会社員は捜査段階から一貫して『 身に覚えがない 』と主張 」していました。
その元会社員の男性は、この「 事件がきっかけで、一部上場企業の電子機器メーカーを退職することを余儀なくされ 」ています。この「 元会社員と同様の立場にいる人を弁護するため、昨年12月には『 全国痴漢冤罪弁護団 』が結成され、約60人の弁護士が参加。事務局長の生駒巌弁護士は、98年以降で13件の痴漢事件に無罪判決が出たと指摘 」した上で、「 触られたと被害者が訴えれば客観的証拠がなくても勾留(こうりゅう)する捜査手法に問題がある 」と述べています。
― この男性は、今年の<布川事件>の現地調査に参加され、ご自身の無実を訴えておられた姿がとても印象的でした。何はともあれ、無罪判決が出たことはとても喜ばしいことです。
先の生駒弁護士が言われたように、同様の冤罪事件が続出しているということは、<痴漢事件>に対する<捜査手法>そのものに問題があり、このような<冤罪被害>を防止するためには、犯人検挙に対しての捜査当局の慎重な姿勢が求められていると言えます。
詳しいことは判りませんが、アメリカでは、その事件を起訴するか否かは事前に開かれる<大陪審>で決定されるという事を本で読んだことがあります。これについては異論はあるかと思いますが、少なくとも痴漢事件のような軽微な犯罪の場合には、<冤罪被害>の発生防止という観点から、同様の制度を検討してみる必要があるのではないでしょうか?
なお、後日の新聞報道によると、上告期限となる12月19日、「 東京高検は、控訴審判決を詳細に検討 」したが、「 上告が可能となる重大な事実誤認はないと判断し、上告を断念 」、これにより無罪が確定したということです。
※ 警視庁の誤認逮捕に賠償命令 (2002.12.16)
1999年11月、警視庁の警察官に住居侵入容疑で誤認逮捕されたとして国立市の男性(44才)が都を相手に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁八王子支部はこの男性の主張をほぼ認め、50万円の支払いを都に命じる判決を言い渡しました。以下、12月16日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。
同支部の小林敬子裁判長は、判決の中で「 住人から通報を受けた警察官が(この)男性を不審者と同一人物と疑ったことには理由があった 」としながらも、「 敷地内には喫茶店もあり、客と間違えた可能性もあると指摘し、『 敷地内に入った人物が罪を犯したと判断したのは早計だ 』と述べた 」上で、『 逮捕当時、十分な根拠があったとは言えず、警察官の過失による緊急逮捕の要件を欠いた逮捕だ 』と 」の判断を下した。
この男性は、1999年11月17日に「 東京都あきる野市内の住宅敷地内に侵入したとして五日市署に緊急逮捕され、9日間身柄を拘束 」されていました。
この判決に対して、「 男性は『 裁判長の勇気に敬意を払いたい 』と話し 」ています。なお、都側はこの判決を不服として即日控訴しました。