[資料6−7 再審開始決定書


 決  定  書  

     

 第1 事案の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

  1 事件の発生から本件再審請求に至るまでの経緯の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・ 3

  2 確定判決が認定した事実の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

 第2 確定判決の証拠構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

  1 確定審における判断の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

   (1)確定1審判決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

   (2)確定2審判決 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

   (3)確定3審決定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

  2 確定判決の列挙する証拠 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25

  3 証拠の内容及びその位置づけ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

   (1)直接証拠 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

   (2)直接証拠以外の証拠 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

  4 確定判決の事実認定とこれに対応する証拠関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

  5 小  括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51

 第3 第1次再審 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

  1 再審請求の理由の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

  2 第1審決定の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54

  3 即時抗告審決定の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55

  4 特別抗告審決定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

 第4 当請求審における審理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

  1 再審請求の理由 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

  2 検察官の意見 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

  3 事実の取調べ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

 第5 当裁判所の判断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

  1 刑訴法435条6号における証拠の新規性,明白性の意義 ・・・・・・・・・・・・・ 58

   (1)証拠の新規性の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

   (2)証拠の明白性の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59

  2 第1次再審との関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60

  3 殺害行為の方法及び順序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60

   (1)争点の整理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61

    ア 請求人らの主張の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61

    イ 検察官の主張の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64

   (2)証拠の新規性及び刑訴法447条2項との関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66

   (3)木村鑑定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68

    ア 扼頸の所見について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69

    イ 絞頸の所見について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71

    ウ 殺害行為の順序について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72

    エ 結  論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

   (4)死体検案書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

   (5)秦鑑定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

    ア 秦鑑定書の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

    イ 秦聴取書の要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76

   (6)確定判決の認定及び請求人らの自白 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78

   (7)三澤鑑定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79

    ア 扼頸の所見について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79

    イ 絞頸の所見について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82

    ウ 殺害行為の順序について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84

    エ 結  論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85

   (8)検  討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85

    ア 木村鑑定及び三澤鑑定の相違点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85

    イ 扼頸の所見の有無 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86

    ウ 絞頸の所見の有無 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92

    エ 殺害行為の順序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96

    オ 小  括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98

   (9)まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100

  4 自白以外の証拠の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101

   (1)1回目訪問時の目撃について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101

    ア M子の供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101

    イ Tの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112

    ウ Wの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・119

    エ Sの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135

    オ 小  括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137

   (2)栄橋の石段の一件について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・139

    ア Iの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・139

    イ Kの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・143

    ウ Aの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・147

    エ 小  括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153

   (3)布佐駅での目撃について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154

    ア Eの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・154

    イ その他の証拠について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・162

    ウ 小  括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・163

   (4)我孫子駅での目撃について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・164

    ア Tの供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・164

    イ 小  括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・169

   (5)その他の自白以外の証拠について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・170

    ア 犯行時刻の裏付けとなるT及びIの各供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・170

    イ その他確定判決が請求人らの自白に符合するとして掲げる証拠 ・・・・・・・・・170

   (6)まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・170

  5 自白の全体を再検討した結果浮かび上がる問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・171

   (1)自白に至る経緯と自白した理由 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・171

    ア 外形的な供述経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・172

    イ 櫻井の供述経過及び自白した理由に関する検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・176

    ウ 杉山の供述経過及び自白した理由に関する検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・191

    エ 小  括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・203

   (2)自白内容の不自然な変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・205

    ア 犯行に至る経緯に関する供述変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・205

    イ 殺害行為に関する供述変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・214

    ウ 金品奪取に関する供述変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・219

    エ 犯行現場における工作行為に関する供述変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・226

    オ 逃走状況に関する供述変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・229

   (3)最終的な自白に関する問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・232

    ア 客観的事実との不一致 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・232

    イ 供述内容の不自然・不合理性及び体験供述性の欠如 ・・・・・・・・・・・・・・242

    ウ バー「ジュン」の関係者の供述との不一致 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・246

    エ 請求人ら間の供述の不一致 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・248

   (4)自白に対する客観的な裏付け証拠の不存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・249

    ア 指紋について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・249

    イ 毛髪について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・251

   (5)秘密の暴露の不存在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・254

    ア 我孫子駅での目撃及び栄橋の石段の一件について ・・・・・・・・・・・・・・・255

    イ 杉山が1回目訪問の際に見た情景について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・256

    ウ 白い財布について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・256

    エ 櫻井の賢司方到着後の行動について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・257

   (6)録音テープについて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・257

   (7)自白に関する検察官のその余の主張について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・259

   (8)自白についての総合考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・260

  6 その他問題となる点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・262

   (1)自白の任意性について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・262

   (2)アリバイの成否について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・262

 第6 結  論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・266


  (別紙1)凡  例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・269

  (別紙2)当請求審において訴訟関係人から提出された証拠の標目 ・・・・・・・・・・・・271

  (別紙3)請求人らの供述調書等の表記一覧表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・283

  (別紙4)我孫子駅での出来事に関する供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・286

  (別紙5)布佐駅・栄橋停留所間の出来事に関する供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・287

  (別紙6)殺害行為に関する供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・288

  (別紙7)金品奪取・分配に関する供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・290

  (別紙8)犯行現場での工作行為に関する供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・294

  (別紙9)逃走状況に関する供述 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・296


  平成13年(た)第1号

               決      定

  本  籍  茨城県北相馬郡利根町大字中田切・・・番地

  住  居  同上

           請   求   人    櫻   井   昌   司

                        昭和22年1月24日生

  本  籍  茨城県北相馬郡利根町大字押戸・・・・番地1

  住  居  神奈川県川崎市幸区東古市場・・番地 コージーハウス・・・

           請   求   人    杉   山   卓   男

                        昭和21年8月23日生

           弁   護   人

           請求人櫻井昌司主任    谷   村   正 太 郎

           請求人杉山卓男主任    柴   田   五   郎

                        小   高   丑   松

                        相   川       裕

                        荒   川   晶   彦

                        飯   田   美 弥 子

                        清   水       洋

                        清   水       誠

                        竹   澤   哲   夫

                        塚   越       豊

                        内   藤   眞 理 子

                        原       希 世 巳

                        松   江   頼   篤

                        松   田   雄   紀

                        山   本   裕   夫

                        佐   藤   米   生

                        青   木   和   子

                        佐   伯       剛

                        石   井   正   二

                        蒲   田   孝   代

                        福   富   美 穂 子

                        中   田   直   人

                        谷   萩   陽   一

                        佐   藤   文   彦

                        阿   部   良   二

                        井   浦   謙   二

                        秋   元   理   匡

                        土   地   順   子

                        洪       美   絵

                        上   野       格

                        秋   山   賢   三


 上記請求人櫻井昌司に対する強盗殺人,窃盗,同杉山卓男に対する強盗殺人,暴行,傷害,恐喝,暴力行為等処罰に関する法律違反各被告事件について,昭和45年10月6日水戸地方裁判所土浦支部が言い渡した有罪の確定判決に対し,請求人両名から再審の請求があったので,当裁判所は,請求人両名,弁護人及び検察官の各意見を聴いた上,次のとおり決定する。

              主      文

    
本件について,請求人両名との関係で,それぞれ再審を開始する。

              理      由

 本決定中の表記等については,別紙1「凡例」によるものとする。

第1 事案の概要

 
1 事件の発生から本件再審請求に至るまでの経緯の概要

   確定記録及び当請求審で提出された関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。

(1) 玉村象天(以下「玉村」という。当時62歳)は,大工を営みながら茨城県北相馬郡利根町大字布川(以下「布川」という。)2536番地所在の自宅(以下,被害者方と記載される場合も含めて「玉村方」という。)で独りで生活していたものである。玉村は,昭和42年8月28日,布川の吉岡方で鶏舎の建築作業をして,同日午後6時30分ころ,同人方から自転車に乗って帰宅し,同日午後7時過ぎころ,布川の米元方に立ち寄ったのであるが,その後の同月30日午前7時5分ころ,大工仕事を頼もうと玉村方を訪れた香取末次郎により死体で発見された。

(2) 茨城県警察本部(以下「県警本部」という。)は,同月30日,玉村被害に係る強盗殺人事件として直ちに現地に捜査本部を設置し(当時の県警本部捜査1課課長補佐渡辺忠治がその実質的な責任者であった。),玉村方の検証,指紋等の採取,死体の鑑定嘱託等を実施したほか,玉村の身辺捜査(これには,玉村が金貸しをしていたとの風評から行われた同人と金銭貸借関係のあった者の捜査,付近の交通機関の捜査を含む。),地取り捜査,前科者や不良者等の捜査,飲食店等のいわゆる接客業者の捜査を実施し,特に地取り捜査においては,利根町一円,隣接する同県龍ヶ崎市の一部,千葉県東葛飾郡我孫子町大字布佐(以下「布佐」という。)の町筋という相当広範囲で,ほとんどの住民を対象として同月28日の夜の動向を直接会って聞くという方法により実施した。

 その結果,捜査本部は,犯行時刻を同月28日の夜から同月29日の朝までと推定し,また,玉村方の近所に住むOT(以下「T」という。)が同月28日夜に玉村方前にいた2人の男を見たなどの情報を入手し,玉村方内部の状況等から複数犯による強盗殺人事件との見方がある状況で,捜査線上に上がった不良前科者等170名から180名に対する捜査を進めていった。

 そして,捜査本部は,強盗殺人事件について,元パチンコ店従業員や労務者を捜査したり,ISを詐欺事件で,Nを傷害事件で,SH及びSSを暴力行為等処罰に関する法律違反事件(請求人杉山卓男(以下「杉山」という。),SH及びSSらが,共謀の上,8月29日,羽入幹壱に対し,共同して暴行を加えたという事案である。以下,これを「暴力行為事件」という。)により逮捕して取り調べたりしたが,いずれも無関係と判明し(なお,逮捕された上記4名の事件については,ISが起訴猶予に,N,SH及びSSがいずれも罰金刑になった。),事件発覚から1か月を経過するころには,新聞報道でも「いぜん捜査は難航(9月28日付け読売新聞)」,「有力な決め手つかめず(9月30日付け朝日新聞)」,「捜査は長期化か(10月2日付け毎日新聞)」といった見出しが出る状況となった。

(3) このような状況下において,捜査本部は,請求人櫻井昌司(以下「櫻井」といい,櫻井及び杉山両名を併せて「請求人ら」という。)の従前の地取り捜査の際のアリバイ供述がその後の裏付け捜査により否定されたことから,10月5日,アリバイ追及のため窃盗事件(櫻井が9月2日千葉県柏市(以下「柏市」という。)内で小倉守所有のズボン1本外ワニカワバンド1本を窃取したという事案である。以下,これを「ズボン等窃盗事件」という。)で逮捕状の発付を受けた。

 そして,櫻井は,10月10日,ズボン等窃盗事件で通常逮捕され,同月12日に同事件で代用監獄の茨城県取手警察署(以下「取手署」という。)に勾留されると,強盗殺人事件のアリバイ等について取り調べられ,同月15日には杉山を共犯とする強盗殺人を自白した。

 櫻井は,その後も強盗殺人事件で取り調べられ,同事件で,同月23日には逮捕され,同月25日取手署に勾留された。なお,櫻井は,一時アリバイを主張して本件犯行を否認したこともあったが,再び自白に転じた。

(4) 一方,捜査本部は,地元の素行不良者でその所在が掴めなかった杉山につき,9月23日から暴力行為事件で逮捕状の発付を受けていたところ,杉山は,10月16日,同事件で通常逮捕されると,強盗殺人事件のアリバイ等についても取り調べられ,同月17日,暴力行為事件で代用監獄の茨城県水海道警察署(以下「水海道署」という。)に勾留されると,同日中に本件犯行を自白した。杉山は,その後も強盗殺人事件で取り調べられ,同月23日同事件で逮捕され,同月25日水海道署に同事件で勾留された。

(5) 請求人らは,その後,いずれも土浦拘置支所に移監されたが,遅くとも11月13日には,検察官に対して本件犯行を否認し,同日,強盗殺人事件の勾留期間満了で書類上は処分保留により釈放された。

 しかし,水戸地方裁判所土浦支部に対し,櫻井は別件の窃盗事件(後記確定判決の罪となるべき事実第1中の別紙5の事実以外の事実に関する事件である。同支部昭和42年(わ)第224号事件)により,杉山は別件の暴行,傷害及び恐喝事件(後記確定判決の罪となるべき事実第2の1,3,6ないし8に関する事件である。同支部昭和42年(わ)第225号事件)により,それぞれ求令状起訴されたため,直ちに上記各事件でいずれも勾留され,引き続き身柄を拘束された。

 そして,12月1日には櫻井が取手署に,杉山が代用監獄の茨城県土浦警察署(以下「土浦署」という。)にそれぞれ移監され,再び強盗殺人事件の取調べを受けると,請求人らは再び自白に転じ,同月28日,水戸地方裁判所土浦支部に対し,請求人らの共犯による強盗殺人事件として求令状起訴された(同支部昭和42年(わ)第225号事件。なお,その際の勾留質問において,櫻井は本件犯行を認めたが,杉山は本件犯行を否認した。)。

 その後の昭和43年1月10日,水戸地方裁判所土浦支部に対し,櫻井が窃盗事件(確定判決の罪となるべき事実第1中の別紙5の事実に関する事件である。同支部昭和43年(わ)第1号事件。なお,同事件を前記昭和42年(わ)第224号事件と併せて「別件窃盗」という。)で,杉山が暴行,暴力行為等処罰に関する法律違反,傷害事件(確定判決の罪となるべき事実第2の2,4,5の事実に関する事件である。同支部昭和43年(わ)第2号。なお,同事件を前記昭和42年(わ)第225号事件と併せて「別件暴行,傷害,恐喝及び暴処法違反」という。)でそれぞれ起訴された。

(6) 請求人らは,昭和43年2月15日,水戸地方裁判所土浦支部での第1回公判期日において,強盗殺人事件についていずれも全面的に否認したが,同裁判所は,前記各事件を併合審理した上(以下,同裁判所における審理を「確定1審」という。),昭和45年10月6日,強盗殺人事件を請求人らの共同犯行と認定し,櫻井については別件窃盗との,杉山については別件暴行,傷害,恐喝及び暴処法違反との,併合罪として1個の主文で請求人らをそれぞれ無期懲役に処するとの判決を言い渡した。

 これに対し,請求人らは,それぞれ控訴したが,昭和48年12月20日,東京高等裁判所は,いずれも控訴棄却の判決を言い渡した(以下,同裁判所における審理を「確定2審」という。)。請求人らは,それぞれ上告したが,昭和53年7月3日,最高裁判所において,いずれも上告棄却の決定がされ(以下,同裁判所における審理を「確定3審」という。),更にそれぞれ異議の申立てをしたが,同月12日,同裁判所においていずれも棄却されたことから第1審判決が確定した(以下,この確定に係る第1審判決を「確定判決」といい,この確定に至るまでの審理手続を総称して「確定審」という。)。

(7) 請求人らは,それぞれ千葉刑務所で服役中であった昭和58年12月23日,水戸地方裁判所土浦支部に対し,確定判決について強盗殺人事件が無罪である旨主張して刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)435条6号による再審請求をしたが,昭和62年3月31日,同裁判所は,いずれも棄却する決定をした(以下,同裁判所での審理を「第1次再審1審」という。)。

 これに対し,請求人らは,それぞれ即時抗告の申立てをしたが,昭和63年2月22日,東京高等裁判所において同即時抗告をいずれも棄却する決定がされ(以下,同裁判所での審理を「第1次再審2審」という。),更にそれぞれ特別抗告したが,平成4年9月9日,最高裁判所において同特別抗告をいずれも棄却する決定がされたことから,第1次再審請求について,請求棄却決定が確定した(以上の確定に至るまでの審理手続を総称して「第1次再審」という。)。

(8) 請求人らは,平成8年11月に仮出獄し,平成13年12月6日,当裁判所に対し,それぞれ確定判決について強盗殺人事件が無罪である旨主張して再審請求をした(以下「本件再審請求」といい,当裁判所での審理を「当請求審」という。)。

 
2 確定判決が認定した事実の要旨

 櫻井は,東京都台東区役所吏員をしていた父及び野菜行商をしていた母のもとで生育をとげ,昭和37年4月茨城県立竜ヶ崎第一高等学校に入学したが,勉学意欲がなく家庭内の不和もあって1年の半ばで中退し,以後転職を重ね,友人宅を泊り歩いたり,競輪遊技をしたりして徒遊生活を送っていたものであり,

杉山は,小学校3年生のときに,肩書本籍地の利根町役場吏員をしていた父と死別し,以後小学校教員をしていた母のもとで生育をとげ,昭和37年4月上記竜ヶ崎第一高等学校に入学したが,2年の3学期に原動機付自転車の無免許運転を理由に退学処分を受け,その後茨城県立土浦職業訓練所を卒業して,東京都で機械修理工となったものの,昭和41年5月上記母親にも先立たれた上,一時同棲して結婚を予定していた女性にも実家へ去られたりしたことなどから,次第に生活が荒さむようになり,定職に就かず,母の残した貯金を少しずつ引き出したり,いわゆるタカリをしたりして競輪遊技にこれを費消するなどして,徒遊生活を送っていたものであるところ,

第1 櫻井は,ビル清掃夫をしていたころである昭和41年3月13日ころから同42年10月10日ころに至る間,前後10回にわたり,別紙(当裁判所注:これは確定判決に添付のものであり,本決定ではその添付を省略する。)記載のとおり,現金合計25万8000円及び自転車1台(時価2万円相当)を窃取し,

第2 杉山は,

1 昭和42年1月3日ころの午後3時ころ,千葉県印旛郡印西町木下地内「リリー」パチンコ店前路上において,小菅義男(当時19才)及び木村重雄(当時19才)に対し「金あったら少し貸せ。」といい,上記小菅がこれを拒絶したことに立腹し,やにわに同人の顔面を手拳で1回殴打し「ちょっとこっちへ来う。」といいながら同人の腕を引っばって付近の路地に連行し,同所において,同人及びこれについて来た上記木村に対し,それぞれその顔面などを手拳で五,六回ずつにわたって殴打するなどの暴行を加え,

2 同年3月下旬ころの午後11時ころ,茨城県北相馬郡利根町大字大房・・・番地の1野口正光(当時32才)方に赴き,同人に対し,友人の山崎登が同人方を訪れているかどうかを質したところ,上記野口から「いねえ。」といわれたため,同人が上記山崎を隠しているものと思い込み,かつ,かねてから同人を快く思っていなかったこともあって,これに立腹し,同所付近路上において,壊れた竹垣の竹棒1本(長さ約1メートル,以下,メートルを「m」と表記する。)を引き抜き「なんだこの野郎。」と怒鳴りながら,上記竹棒で同人の左肩を1回殴打する暴行を加え,

3 同年3月27日午前1時40分ころ,同県稲敷郡牛久町大字中根「マルイ食堂」こと石井啓治方において,加藤和男,山崎登,坂本旭,大津弘と飲酒したのち,上記加藤運転の乗用車に同人らと共に乗車し,同店駐車場から国道に出ようとして車両を後退させようとした際,磐城運送株式会社の自動車運転手小野重隆(当時23才)運転の大型貨物自動車が国道から

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