ときめきメモリアル2


 ッヒュッ。  俺の頭の上で、風を鋭く薙いだような音が聞こえた。 「今のはわざと、次は外さないよ」  目の前の少女はそう言って、リズムを取るように軽やかなステップを踏み、 間合いを取った。  赤い髪のショートカットの女の子。今さっき、本当に偶然に出会った幼なじ み。だが俺は、腰まである髪をなびかせていた彼女の姿しか知らない。そしてそ れは7年も前の姿だ。  桜の舞う校庭で、俺は少女から逃げるように一歩あとずさった。 「やめろ光、俺はやる気は無い」  俺は両手を広げて戦意がない事を示したが、光は首を振るだけだ。 「ダメだよ。私のこと覚えてたんだったら、勝負してよ」  僅かに間合いを詰めてきた。パッと見はかなり広い。しかしさっきの回し蹴 りも、この間合いから出た。想像以上に伸びてくる。どうやら光は本気だ。  構えずに、半歩、後ろに下がる。 「構えてよ」 「イヤだ」 「どうして!?」  昔から光は律儀だった。俺と同じ道場に通っていた時から。  構えを取らない相手には攻撃しない。戦意の無い相手には手を出さない。  成長しても、やっぱり光は光だった。 「変わらないな」 「…なにがよ」 「いや、そう言うところがさ」 「誤魔化したってダメだよ。ここで私が勝てば、勝率はタイなんだから」  俺と光は、幼稚園の頃、一緒に少林寺拳法の道場に通っていた。  正しくは俺の後にくっついて光も入門したのだが。  小学校に入った頃から道場の中で模擬試合を始め、俺と光はよく一緒に試合 をした。  結局俺が45勝44敗37引き分けで勝ち越したまま、転校した。  どうやら光はかなり悔しかったらしい。  引越しの日、泣きながら 「勝負しろーー」  と、トラックを追いかけてきたくらいだから。  負けず嫌いなのも相変わらずみたいだ。 「ガキの頃の話だろ」 「関係無いよ。私が負け越してるのは事実なんだから」 「それにな、光」 「なによ」 「俺はもう、格闘技はやめたんだ」 「え…?」  光の跳ねるようなステップが止まった。構えを解き、両腕をゆっくりと落し、 呆気に取られたような顔でその場に立ち尽した。  いまさら気が付いたが、光の構えは少林寺のそれじゃなかった。  構えが全然違うし、あのステップを踏むような構えには見覚えがある。ジー クンドーとか言うやつだ。 「なんで? どうして止めちゃったの?」  よほど動揺したのか、声が掠れた様に高い。 「…とにかく、俺はもう、やめたんだ」  正確には格闘技自体をやめた訳ではない。だが、その理由や経緯を光に説明 する気にはなれなかった。  俺はそのまま踵を返し、校舎に向かって歩き出した。  後ろから光が付いてくる気配はない。  強い風が吹いた。  ざああ、と満開の桜並木がざわめき、薄桃色の花びらを吹雪のように舞わせ た。  校庭には花びらのじゅうたんが敷かれ、俺と同じように、今日入学式を迎え る生徒たちが、足早にその上を通り校舎に入っていく。  その中に、光の姿は無かった。  つづく。のか??



 某、格闘系マンガを読んで、つい…

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