混声合唱組曲
武 蔵 野
作詩 島崎 光正 作曲 飯沼 信義
V.秋の章
<おやすみ>
<ママ・・・・>
人影のチラチラ揺れる
サッシの窓の外では
胡桃の実の落ちる音がする
昼の時雨のあとを
まだ霄(よい)あさく
山かげのピアニシモ
<おやすみ>
<ママ・・・・>
灯りの届かない草むらに
間もなく
リスが胡桃を拾いにやってくるだろう
ひそかに
母なる温み(ぬくみ)との出会いのように・・・・・
<おやすみ>
<ママ・・・・>
やがて灯りは消えるだろう
また固い実の落ちる音がする
せせらぎのほとりに
立ち尽くしたまま
作為の日々は少しもなかったのだと
熟れるよろこびは
別れの悲しみに通じるのだと
一本の胡桃の木
今夜 リスが引きにやってくるだろう