エーラーへの道
by Gm

第3章 エーラーの基礎知識
 ここまで読み進んで、ちらっとでもエーラーに替えてみようかなと思われたあなた。あなたは選ばれた人です。ここで更にエーラーに関する知識と理解を深め、あなたのほんの出来心を強固な意志にまで高めて頂くために、エーラー初心者が抱きがちな疑問にお答えします。
 なお初めにお断りしておきますが、以下のアンサーはどれも音楽史的な根拠が極めて乏しく、あくまで1アマチュアの個人的な体験と耳学問と、おまけに独断と偏見に基づくものであることをご承知おきください。

<楽器について>
そもそもドイツ管とかフランス管て何?
ドイツ・ベームって何のこと?
ドイツ管にも2種類あるそうですが…?
<マウスピースとリードについて>
マウスピースとリードはフランス管とどう違うの?
マウスピースはどこのが良いの?
ドイツ管用リードのメーカーは?
<ヒモとリガチャーについて>
なぜリードをヒモで巻くんですか?
ヒモの巻き方は? 

<楽器について>
Q1-1 そもそもドイツ管とかフランス管て何?
A: クラリネットはドイツで生まれ発展したので、その伝統的特徴を連綿と受け継ぎ今もドイツやオーストリーで使用されているクラリネットをドイツ管と呼んでいます。 内径(ボア)はほとんど円筒で、ベル近くになって急速に開きます。音色は温かく内省的で、独墺大作曲家の創作意欲をかき立たせました。
 一方フランス管は、ベームさんというドイツ人のフルート吹きが考え出したとても便利なフィンガリングをクラリネットにも応用しようと、19Cの半ばにフランスの某楽器メーカーとパリ音楽院の某教授が結託して開発した新種のクラリネット。その際、おせっかいにも内径のテーパーを早めに拡げてフランス人好みの派手な音が出るように改造した。それは、モーツァルトは言うに及ばず、クラリネットのために輝かしい作品群を書き残したウェーバーが没して10年以上も経ってからのことである。フランス管のルーツはここまで。指も内径も違うので、いわゆる古楽器とは縁もゆかりもありません。両者の内径の違いはベルを外し下管に指を入れてみれば歴然としています。フランス管はその後、『水は低きに流れる』或いは『悪貨は良貨を駆逐する』の喩え通り、華やかな音色と簡単な指使い故に世界中で爆発的に繁殖しましたが、この楽器からモーツァルトやウェーバーやブラームスがイメージした音を引き出そうとするのは土台無理な話です。
Q1-2 ドイツ・ベームって何のこと?
A: 内径や仕掛け(マウスピースやリードなど)はドイツ管だが指はベームという折衷楽器。リフォームド・ベームとも呼ばれ、ドイツ管の音は好きだけどエーラーの指はどうもね…という人に向いている。
 N響(そのまんま)のI氏ほかプロにも愛用者が多い。両者のいいとこ取りで理想的とも思われるが、どっちつかずで中途半端とも言える。
 『ほんとはエーラーを吹きたいけど、あれでダフクロ(ダフニスとクロエ)は吹けない』という有名プロの本音を聞いたことあり。
 幸いなる哉、我々アマチュアには失うものは何も無い。因って「ホルツの会」にドイツ・ベームで入会しても何故か多くは程なくエーラー派に改宗する。
 何でも耳元で悪魔が囁くのだとか。お〜コワ!
Q1-3 ドイツ管にも2種類あるそうですが…?
A: むむ、おぬしやるな。左様、ドイツ管にはドイツタイプとウィーン(オーストリー)タイプがありまする。
 前者の代表メーカーがベルリンフィルなどで使われているヴリツァー、後者がウィーンフィル周辺のハンマーシュミットです。仕掛けと内径が少し異なりますが、ドイツとオーストリー国民は些細な違いにもかかわらず、お互い全く隣国のクラリネットを使おうとしません。
 フル・キイシステム同士の外観上の特徴は、右手中指で押さえる下管の上から2番めのキイがリングならウィーン、カバードならドイツです。つまりあなたがエーラー管にしようと決心しても、眼前には二又の分かれ道が立ちはだかっていると言う訳です。主には経済的な理由から、一旦どちらかを選んだら元に戻って違う道を行くことは出来ないと思ったほうが良いでしょう。
 ホルツ会員もほぼ半々の勢力で、音色的には混じっても全く違和感はありませんが、吹き心地はかなり異なります。
 因みに私はH・ゴイザーの音でドイツ管に目覚めたのでベルリン方面行きを選択しましたが、未だにウィーン方面に未練を残しています。
<マウスピースとリードについて>
Q2-1 マウスピースとリードはフランス管とどう違うの?
A: ドイツ管のマウスピースにも楽器同様ドイツタイプとウィーンタイプがあり、厳密にはそれぞれにエーラー用とリフォームド・ベーム用があります。
 何れのマウスピースもフランス管のものに比べ一見して細身で尖った印象です。また、本体中央部に刻まれたヒモを巻くための溝が識別ポイントです。
 特に意味はありませんが、あなたが使い慣れてきたヴァンドレンの5RVライヤーやB40などはドイツ管の樽にはゆるゆるで合いません。ドイツタイプとウィーンタイプのマウスピースは先端の開きやフェイシングの長さがかなり違うので、各々専用のリードを使用します。ドイツタイプのリードよりウィーンタイプの方が僅かに幅広ですが、それでも通常のフランス管用よりはやや狭く短いので多少音量が落ちるのでしょう。
Q2-2 マウスピースはどこのが良いの?
A: 私にはドイツ・タイプのマウスピースのことしか解りませんが、ブランドの如何に拘わらず、ベースはほとんど独ツィンナー(Zinner)社が供給しているようです。
 ツィンナーやヴリツァーからも多数のモデルが出ていますが、ホルツではツィンナーをベースにヴィオット(Viotto)という謎の数学者?が開発したモデルが人気です。L−5(エルゴ)、SM(エスエム)、P+4(ペープラスフォー)などですが、ライスターはL−5にヴァンドレンのホワイトマスターの2・1/2を付けているとの噂。SMはザビーネ・マイヤーの略です(念の為)。あるベルリンの楽器屋さんは『ザビーネ以外にSMを使っているプロなんか居ないよ』だと。プライドが許さないからか?
 私は音質の上品さが気に入ってP+4を長く吹いていますが、先日ベルリン州立歌劇場のメンバーがホルツの練習に遊びに来た折に確認したところ、全員がP+4だったので大いに気を強くした次第です。ドイツ版5RVライヤーかな。
Q2-3 ドイツ管用リードのメーカーは?
A: 比較的手に入りやすいのはヴァンドレン。ホワイトマスターはドイツタイプ用、ブラックマスターはウィーンタイプ用です。
 米リコ(Rico)社からも最近結構良いドイツタイプのリードが国内発売されましたが、どちらもめったに売れないので常時置いている店は少ないかも知れません。
 シュトイヤー(Steuer)は歴史の長いドイツのメーカーで、ドイツタイプ用にはS−100、800、900など5種類のカットが売り出されています。 一時ばらつきが多かったですが数年前に経営者が代わり品質も安定したようです。東京の大久保にある石森楽器さんに頼めば郵送してくれます。
 私は長い遍歴の末に、先端が厚めで馬の背?が長いシュトイヤーのS−800というモデルを愛用しています。
<ヒモとリガチャーについて>
Q3-1 なぜリードをヒモで巻くんですか?
A: ドイツ管というと全てリードをヒモでマウスピースに固定すると思われがちですが、それはドイツタイプのことでウィーンタイプは金属のリガチャーで固定します。
 ドイツタイプの音の鋭さを緩和し、ウィーンタイプの音のソフトさに芯を出すためにそうなったと解説されたりしますが、本当のところは知りません。確かにヒモで巻くと少し音量は落ちますが、各音域の音にムラが無くなり、フォルテッシモで吹いても音のピークが遠のくような気がします。また、最低音域が軽くなるなど全体としてリードが0.5近く薄くなったように感じます。「このリード音良いんだけどちょっとキツイなー」というときの救世主。
 しかしながら何よりもリードを替えるのが面倒なのと、マウスピースを握ってB♭管とA管を持ち替える時などリードがずれてしまいがちなので、
最近ではドイツの奏者でも仏BG製のソフトリガチャーなどを使う人が増えているようです。それに伴い、かつてはヒモを巻き易いようにマウスピースの溝の上に付いていた土手?が、リガチャーをはめる時に邪魔になるので、最近は姿を消しつつあります。
Q3-2 ヒモの巻き方は?
A: ヒモは慣れれば誰でも30秒以内で巻けるようになりますが、巻き方は人によって右巻き派、左巻き派に始まり千差万別で、決定版は無いようです。
 最も異なるのは巻き始めの位置で、リードの横から、上から、反対側からと百家争鳴状態。
 私はしばらく「リード上から左巻き派」でしたが、最近あるドイツ奏者に「リード裏から右巻き派」に転向させられました。SM女王にしろBフィルのWF氏にしろヒモの巻き方はズサンというか無頓着というか…弘法は筆を選ばないということでしょうか。
 ヴリツァー純正!のヒモは1m余りで千円もしますが、ヒモなら凧糸でも靴ヒモでも何でも良く、素材によって音も変わるので一度は凝ってみるのも良いでしょう。
 なお、ヒモの巻きの強さや部分的な力配分でも音が変わると言う人がいますが、私は耳が悪いのかさっぱり判りません。
(2002/3/10 by Gm)