研究の手引き
1999.10 大島正毅
大学において研究は特別の位置を占める。教育機関である大学でなぜ研究が大切なのだろ
う。それは、研究することがもっともよい学びの方法であるからだ。学ぶことは講議を聞
いたり本を読むことからも得られるが、研究はそれらをはるかに越える学びの手段であり
、時には直接知識を自分で作り出すこともできる。職業研究者が研究を行うのはいわば当
然だが、学生の身分にあるものが研究を行うのは、一面では職業研究者の予備軍を育てる
という側面があるが、もう一方では研究の方法論を学ぶことによって、将来必要なあらゆ
る分野の知識を自力で得られる基礎を養うのにベストの方法であるからである。
研究のテーマが将来の進路と直接関係があるかどうかは分からない。しかし、ある分野の
研究に精通すれば別の分野もおのずと入りやすくなる。大学の勉学というものは全体とし
てそのようなあり方をとっていると言ってよいだろう。
研究は見掛けははなばなしく見えるが、その実態は地道な努力の積み重ねである。学問に
王道なしとの言葉もあるように、これが絶対だというものはない。また非常に人間的な営
みであり、ほかの方法では得られない喜びも深い。研究に真剣に取り組むことにより今後
の人生の展望にもつながる。苦難に耐えつつも、プロセスを楽しむすべを見つけるとよい
。全力を投入し喜びを感じられるようになってほしい。
一般的なこと
研究の成果は投入した努力の単調増大関数である。努力なしに成果は出ない。まず自分の
投入できるだけのエネルギーを可能な限り投入すること。趣味や楽しみ、アルバイトが過
度に渡れば十分な成果は出ないと心得ること。
勤勉であれ
生活の中心に研究をおくこと。工学系の研究は勤勉でないと成り立たない。身分は学生で
も職業研究者になったつもりで勤勉に。家や図書館でも勉強はできるし、ネットワークを
活用すれば研究の大部分も自宅でできるが、自宅で寝転んでいては研究ははかどらないと
心得よ。まして遊びほうけていては何ごともおぼつかない。研究グループで定めた行事に
は無断欠席しないこと。大学院生以上には、給料はもらっていなくても常勤の研究員にな
ったつもりで生活することを勧めたい。最小限この程度の勤勉さがないと研究がまとまら
ない。
研究ノートをつけること
研究を進める上でノートの必要なことはよく知られている。人間は忘れやすい動物である
。浮かんだアイディアの大部分は瞬間的に消えてしまう。ノートをつけてみるとこのこと
が分かる。また、過去のノートを読み返すと思わぬアイディアが湧いてくることが往々に
してある。研究ノートにはサイズの一定した用紙(ノート)を用いるのがよい(適当な紙
に書き散らすと結局何も記録しなかったことに近い)。日付を必ず記入する(5/21のよう
な形式は不可、1998.05.21などが望ましい)。内容は当初何でもよい、研究上のアイディ
アや心に浮かんだことを書き付けたり、計算機実験したときのソースリスト、結果(失敗
に終ったものでも価値あり)、文献を読んで考えたことなど、どんどんページをかせぐの
がよい。1年間にノート10冊位使うペースで。計算機データとしてノートを作るのも一法
だろう。ただし散逸しないように。
予定をたて、それを実行しよう
研究は本来いつまでに何を発見・発明しようとしてできるものではないが、人間は弱い存
在で、何か仮の目標を持っていないと流されやすい。また、学生の身分なら卒業等の期限
が定まっている。いつまでに何をしようというゴールを作り、その中間段階にもゴールを
作るのがよい。逆算すると、今すぐやるべきことが出てくる。その今何をすべきかが大切
で、日々の営みの集積で目標が達成される。
長期と短期
日々の勤勉な営みの積み重ねで大きな成果も生まれる。しかし、長期計画なしに漫然とし
ていても成果にはいたらない。しっかりした長期目標にはよい研究テーマを選ぶことが重
要である。それを支える日々の営みを行うのがよい。ちゃんとしたテーマがあって、毎日
とにかくやることがあるというのがよい。やることが当面なく手持ち無沙汰になってしま
ったら申し出て欲しい。
24時間考えよう
アイディアを探すとき、またあるアイディアらしきものが見つかったら24時間考えるよう
にしよう。頭にそのように指令しておくと、考えていないようでも考えているものである
。通学時などにふと考えが湧いたらしめたものである。すぐノートに記録しよう。このよ
うなことの妨げになる雑念はなるべく避けるように生活しよう。
自分のカリキュラムを作ろう
研究を成り立たせるためにやることは山程ある。これらを自分で書き出してみよう(ノー
トに記録すること)。また、やっておいた方がベターなことも沢山ある。これらを自分で
時間割の形にするのも一法である。例えば、午前中は思索にふけったり、文献を読んだり
、実験データを解析したり(午前の方が頭脳明晰なことが多いから)、午後は計算機プロ
グラムのデバッグをしたり、実験装置の操作をしたり等。研究は単調には進まないので、
そのときどきにベストと思われる時間の使い方をするのがよい。疲れたら図書館等で文献
を探すなど気分転換も必要だろう。
基礎体力を養おう
計算機の使い方、プログラムの仕方、実験装置の使い方に習熟する、文献を集めて読む、
ねらいとする対象物の性質を観察するなど、どういうテーマを選ぼうと必ずやるべきこと
はある。テーマが具体的に定まらない時期に、いたずらに何もしないで過ごしがちである
が、これら基礎体力に相当するものは常に養っておくこと。また、テーマが漠然としてい
てもそれに必要な入力・出力プログラムなどは当然作っておくべきである。
入力なければ出力なし
研究出力を得るために色々なインプットが有効または必要である。時間を有効に使って、
以下のことを行おう:
文献サーベイ
討論
思索
学会参加(発表、聴講、討論、面談)
見学
研究環境整備
予備実験
application分野の調査
これらを含む日常的研究活動の定常的な流れを作ろう。特に学会の論文誌などは必ず定期
的に目を通すこと。
チェックアンドレビューをしよう
自分では勤勉にやっているつもりでも一向に成果が出ないことが時としてある。また、思
考が迷路に陥って脱出困難になることもある。こんな時は指導的立場にある人(君たちな
ら指導教官)と話をしよう。また、大体アイディアがまとまって、これから実行に移すと
きとか、大規模な実験を始めるときなども必須である。順調に行っているときでも指導者
と最低2週間に一度は個人的に打ち合わせるのがよい。研究ミーティングで自分のやって
いることを荒削りでもよいからきちんと定期的に発表(必ずレジメを作ること)すると、
この過程がスムーズになされる。
キャッチボールをしよう
指導者と討論したとき、こんなことをやってみなさいとか、検討しなさいとか言われた場
合、必ずそれに結果を返すこと。あまり気が進まないとか、よい結果でないと恥ずかしい
などと言っていては最終的なゴールにはたどりつけないと心得ること。指導者とて万能で
ないし、相手は本来未知のことだから、いつもよい結果が出るとは限らないのは当然であ
る。キャッチボールに例えれば、相手から強いボールが来たら強いボールを投げ返す位の
心意気が欲しい。指導者はアドバイザでもあり、広い意味で共同研究者でもある。指導者
の助けを借りず、自分だけの路線で成果を出すには少なくとも10年は掛かる。一人前の研
究者でも自分自身と未知のゴールとのキャッチボールは存在する。キャッチボールは研究
グループの中や学会での発表などにも存在する。このキャッチボールが研究がもっとも価
値ある教育であることの真髄ともいえる。
形のあるものを作ろう
最終的に卒業論文、修士論文などをまとめることはきまっているが、中間段階でもなるべ
く形のあるものにするのがよい。学会の論文や学術講演会予稿などがベストだが、研究ミ
ーティング向けのレジメなどをまめに(できればなるべくきれいな体裁で)作るのがよい
。また、このほか形のあるものは、データ処理を計算機の上で見せられるデモンストレー
ションプログラム、結果をビデオに記録したもの、研究用プログラムをパッケージ化して
他の人も使えるようにしたもの、記録データや写真・図表、パワーポイントデータなど(
これらを成果物という)などが考えらる(一番メインは学会誌の学術論文)。これら形の
あるものは色々な使い道があり、自分自身もメリットを得られ、研究グループとしての発
展にも大いに役立つ。その第一歩としては前述の研究ノートが役立つ。なお、成果物は卒
業時に必ず研究室に残し次の世代が役立てるようにすること。たとえ失敗に終ったもので
も役立つことを覚えておいてほしい。
情報を収集しよう
本の限界 万巻の書物という言葉があるように、本には膨大な知識がつまっている。本か
ら学べることは多い。しかし本の限界は知っておく必要がある。自分の専門分野の教科書
は一通り目を通しておき、基本的なキーワードや手法は心得ておく必要はある。しかし、
こと理工系に関しては、本は情報収集のごく一部でしかない。少なく見ても、今手に取っ
ている教科書に書いてあることは10年前の最新情報でしかない。それだけに生き残ってい
るものの良さはあるが。仮にある研究室で何か最新の成果が出ると、まず研究者のノート
に記録されるであろう(欧米の有名な研究では発見の瞬間のノートが残っていて公開され
ることがある)。次に研究グループ内のミーティングで発表され、学会の学術講演会で発
表され、学会の論文誌に載る。ここまでで、早くても3年位掛かる。そのような論文を沢
山集めて、よく咀嚼して教科書が執筆される。10年前の情報という意味が分かるだろう。
よい教科書が出るようになったら、その分野の発展は次の段階に向かっている(または発
展は終っている)と考えられる。発展を続けている分野にはよい教科書はないと考えれば
よい。
最新情報 ということで、最新情報は一番発生源に近いところから得られる。ただし、発
生源に近い程量は膨大だし、玉石混交で評価が定まらない。最新の学術論文誌(査読とい
って、論文の品定めをしてから掲載されるのが普通)が一番情報収集の手段としてはオー
ソドックスである。学会の学術講演会は成果が出てから半年後位に出るものもあるのでか
なり早い。その学会に出席して発表者とじかに話すと、フランクな人なら今日出たばかり
の成果を話してくれる。また、まだ研究プランの段階で成果の形になっていないものを披
露してくれる場合もある。ただし、情報交換はギブアンドテークを基本とする。最近はイ
ンターネットのWebの上で情報が公開される傾向にあるので利用するとよい。また、ネッ
トワークニュースや電子メールも情報交換に使われる。特定のテーマについてネット上に
グループを作り電子メールを交換しあうメーリングリストというものもある。ふさわしい
ものがあれば参加するのもよい。
情報を発信しよう
研究成果を発表するには、学術講演会、学会論文誌などがある。世の中全体の注目を集め
るような成果のときは報道機関に報道されることもある。広い意味では発表といえる。ま
た、ときにより特許を取得することもある。これらは、成果を世の中の共有財産にするも
のである。学術論文は世の中の財宝ともいえる。その発表者は名誉が得られ、個人として
も財産となる。一方、実は情報を発信することは、情報を収集するためのベストに近い方
法である。情報をよく発信する人にはよく情報が集まるのである。ささやかなものでも、
できるだけ発表するように心掛けること。そうするとどんどん自分に役に立つ情報が集ま
ってきて、研究の進展にはかり知れないメリットが得られる。Webの上での情報の公開に
も同様の性格がある。Webでの発信は迅速性、双方向性、受信者にとっての利用のしやす
さ、プログラムやデータなどは直接そのまま利用できるなど紙の媒体とは相当異なるメリ
ットがある。研究成果の発信は研究室内の発表から第1歩がはじまる。このへんの呼吸が
分かって来たら、プロの研究者への道が開けてくる。
テーマの見つけ方
(ここは(も)大島の個人的発想で書いてある。他の教官等と発想が同じである保証はな
いので一例として見てほしい。また、いつも同じやり方でテーマがきまるとは限らない)
問題は作ることと解くことに分かれる。研究テーマをきめるということは問題を作ること
に相当する。研究は何もないところから何かを作り出す作業といえる。それには王道はな
いので誰もが苦労する。それだけによいテーマの価値は高い。研究にはじめて取り組む場
合、気負い込んで全くゼロから考えようとすることがある。逆に授業の演習問題のように
与えられたものをこなせばよいと考える人もいる。いずれもいささか片寄っている。研究
グループのねらっている方向性やそれに関連する分野の最新動向をちゃんととらえるのが
基本である。ただ、修行中の身ではなかなか難しいので、ある程度演習問題的になるのは
やむをえないし、それでも勉強にはなる。問題の重要性、難易度等教科書を読んだだけで
は学べない。また、すでに問題が存在していて、それが解かれていない価値あるテーマも
存在する。教官のアドバイス(各個人の興味・能力・力量を勘案するはず)に従うのが基
本である。世の中には何がころがっているかは分からないから、思わぬ大発見・大発明が
生まれる可能性はある。特に何も知らないがゆえの新しい発想というものには価値がある
。自分で考えるのが基本で、何も考えていませんから教えて下さいではアドバイスのしよ
うがない。
テーマが大きすぎるとまとまらないし、小さすぎるとただの演習問題になってしまう。
最初に、自分の分野のキーワードを知る。教科書的なものにざっと目を通し、どこに何が
書いてあるか程度は把握する(ただし、研究グループに関係ある教科書といっても、関係
なくはない程度のものと心得ること、最先端のキーワードは教科書にはない)。学会誌や
学術講演会資料を見て、どういうことがテーマになり得るかの雰囲気をつかむ。手近には
、過去の卒業論文、修士論文がある。これらの情報は無視できないが、過剰に重視しない
方がよい。勉強し過ぎるとアイディアが出なくなるという言葉にも一理はある。
研究をあえて評価するとすれば、アイディアのオリジナリティ × 流した汗の量といえ
るだろう。平凡なアイディアでも汗を沢山流せばよい仕事となるし、アイディアが非凡な
ら仕事量が少なくとも評価できる。一番評価が高いのは両方が備わったものである。
この程度のことが終わったら、自分の気になったこと、興味を引いたことなどをメモし
ておこう。そして、自分自身のキーワードを作り出そう。この段階で指導者の知恵を借り
るのがよい。キーワードは何を実現したいか、どんな手法で問題を解くかが基本となる。
それぞれ複数ずつ見つかれば、論文タイトルに相当するテーマ名が定まり得る。
ヒントとして:
・つねずね自分に関心あることで、研究グループの手法を適用できるものはないだろうか
。
・ある技術とある未解決課題を結び付けるものはないだろうか。
・研究グループの現在までねらってきたものを発展させる方向性は何か
・論文を読んでふと湧いたアイディアや疑問はないか
キーワードは素人の思いつきでもよい(というか、学部生の場合なら所詮そうなってしま
う)。数打てば当たる式にできるだけ沢山出して指導者の意見を聞いてみるとよい。中に
は思わぬアイディアが出るかも知れない。全く予備知識なしで奔放に発想するか、思いき
り深く勉強して深い思索から得るかがよさそうである。中途半端に勉強して、流行のテー
マを追い掛けるようなのは感心しない。
一旦キーワードらしきものが浮かんだら、関連する情報を徹底的に収集するとよい。キー
ワード的には似ていても考えていることとはまるで異なる情報もある。考えていることと
同じでないものばかりなら、発想にオリジナリティがあるかも知れない。よいテーマであ
るためには、問題が解くに値するものか、うまく解ける性質のものか、今後の発展性はな
ど色々の条件がある。またあたりはずれもある。最終的には必ず指導者と相談し、ゴーサ
インをもらうこと。
研究テーマの網の掛け方
研究の進み方には、何かやりたいことがあって、実現法を一生懸命見つけるというスタイ
ル(ニーズドリブン、会社の研究スタイルや工学分野はこれが多い)、科学法則など知識
を得てその後役に立ちそうな対象を探そうというスタイル(シーズドリブン、理学分野は
これが多い)が代表的な研究の進み方の例である。前者は世の中に役立つことでアピール
できるし、満足感もある。ただし、本当に役立つためには相当手間が掛かるし時間も掛か
る(これを泥臭いと称することもある)。後者は研究的に面白みがあることが多い。たと
えばシーズドリブンでは今まで思いもつかなかった分野への応用が突然見つかることがあ
る。ただし、研究のための研究になりがちである。うまくテーマを選べば金も掛からず、
時間も掛からないで成果が出ることがある。後者のアプローチを行うには基礎的な勉強の
積み重ねが重要である。
応用を意識すること、応用に捕われすぎないこと
教科書的なもので学ぶと、ある完成した技術があって対象にはわずかの努力で適応できる
と思いがちである。このようなものは研究ではなく単なる演習である(実際には個別の特
殊性を吸収するのは案外難しいが)。研究は、それまでのその分野の発展ととらえること
もできる(それともまったくゼロからの出発)。発展させるとき何もかもに使えるような
発展はまれである(たとえば高速で精度・信頼性が高く柔軟で経済性のある技術)。どの
ような方向に発展させるかは応用によって異なっている。ある程度具体的な応用を意識し
て研究すると研究の方向性が定まりやすい。ひとたびある分野に応用し得るように技術が
発展したら、それは他の分野でも役立つのが普通である。しかし、応用を意識するのはこ
の意味であって、応用そのものを中心にするとまた研究から離れることが多い。企業の応
用研究と違って大学の研究は基礎研究であるのが普通だから、直接応用を目指すと応用に
伴う非研究的な側面に大部分のエネルギーがとられる。
自分に関心の持てる応用的なキーワードが見つかった場合、それだけではテーマが見つ
かったとは言えない。専門分野の技術用語に直して表現できなくてはならない。例えば「
木や草の識別の研究」ではなく「テクスチャを有する表面形状の識別」などとするべきで
ある。さらに専門的に見てどのような方法論かの視点が必要である。識別ならどんな方法
で行うかが問われる。例えば「初期条件に対象固有の知識を用いたクラスタリング手法の
固有値解法による識別」などとする(この例は実際の研究とは無関係な単なる架空の例で
す)。その段階で研究テーマ名(将来書く論文の名前)が「初期条件に対象固有の知識を
用いたクラスタリング手法の固有値解法によるテクスチャを有する表面形状の識別 とそ
の木や草の識別への応用」などと定まる(例なので長くなったが、実際にはもっと簡潔な
ものがよい)。
このとき、テクスチャを有する表面形状の識別の重要性とは何か:たとえば国民の福祉
に重大な影響のある環境保護の上で重要な木や草などの識別に重要なテクスチャ識別技術
は従来の技術のままでは適用できない。よってテクスチャを有する表面形状の識別が重要
である。テクスチャを有する表面形状の識別に適用できそうな従来の技術には○○法、×
×法があるが、○○法は……のような人工物には向くが、このような対象には適用できな
い、××法は高精度の△△を必要とするため適用不可能である。最も有望なのは▽▽を前
提としたクラスタリング手法の適用であるが、文献1に見られるように××による固有値
解法は極めて限定された条件でしか使えない。よって対象固有の知識を用いた解法の適用
を考える。対象固有の知識については従来、文献2のようにまだ十分得られるとは限らな
い。しかしテクスチャを有する表面形状の識別に関しては、統計的情報をあらかじめ得て
おくことができる。以上のように本研究では従来にないテクスチャを有する表面形状の識
別が期待できる。本論文ではこの手法の問題点を検討した後、新しい方法を提案し、識別
を行う計算機プログラムを作り、○○草、▽▽樹などを対象に200例の実験を行って検証
した。実験の結果○○の特徴については95%の結果が得られており、主張が裏づけられた
。またより一般の対象に適用するためには○○についての条件が必要であるが理論計算の
結果十分であることが示された。今後はさらに……の可能性を追及することが課題である
。 (前書きと結論を一緒にしたようなものを仮に書いてみました)
上記は木や草の識別というばくとした方向から、より中身に踏み込んだ考察を経て実際の
テーマが定まって来ることを示している。同じ木や草の識別でもとらえ方によっては「色
分布の空間的非定常性を有する物体の2相性反射モデルに基づく識別」とか、「形状の時
間的に変化する物体の時系列画像からの消失点検出に基づく識別」とか「非剛体
のソリッドモデラでモデル化した形状の○○照合による識別と位置姿勢の決定」などとら
え方はいくらでもある。木や草の識別というだけではテーマが見つかったとはいえないこ
とが分かっただろうか。対象領域の深い理解、色々な従来手法を深く理解するとよいテー
マを見つけやすい。成果を理解するとは(その著者達も気づいていないかも知れない)そ
の限界や発展の方向を位置づけることも含まれる。
応用にとらわれすぎると自由な発想の妨げになることがあることも分かってほしい。一般
にはあまり自由に発想しすぎると何もまとまらない、ある程度限定された条件で考えた方
がよいも真実であるし、個別にとらわれて自由な発想ができなくなっては困るも真実であ
る。応用との関わりは企業の研究機関なら至上命題であろうが大学の研究はもう少しつか
ず離れずであってもよいと思う。
常に走り続けること
テーマが具体的に定まらないと落ち着かない。またテーマがうまく定まれば半ばの成功と
もいえる。そこでなるべく早めにテーマを決めること。しかし、テーマが定まらないから
といって何もすることがないわけではない。やるべきことは既に述べたように山のように
ある。テーマが決まらなくてもそれらをやりながら常に走り続けること。ただし、副次的
なことで時間をつぶし、だらだらと未定状態をひきづらないこと。ばくとしたものでも考
えていることがあるなら、それにプラスになる具体的材料はあるはず。なるべく具体性の
あるものに早くから掛かること。
今すぐできることからはじめよう
テーマがばくとしていても、ある対象物について何かやりたいというのなら、まず演習問
題的にやっている課題(画像の基本処理)のデータとしてその対象物を使ってみよう。対
象物が背景からうまく切り出せるかとか、フィルターを掛けてみたらどうなるとか、ヒス
トグラム処理の結果はとか、得られるものは案外多い。また、この段階で基本処理がうま
くできない対象は相当手ごわいと知るべきである。考えている想定をうんと簡略化して手
計算で試算してみるなどもできる。読むべき文献のリストを作るのもよい。思い描いてい
るテーマについて何かスケッチでも描いて机の上に張ってみる、ノートにキーワードを書
きなぐるなどもある。
論文の読み方について
研究を進める上で論文を読むことは大切なことである。慣れない時は苦労が多いが、論文
は3回読むとよい。まず、ざっと読んで論文タイトルの意味がほぼ理解できたらよい。次
に中を詳しく見る。ただし、必ずしも順番通りに読まなくてもよい。論文にはキーアイデ
ィアというものがある。これは案外簡単なことが多い。それをうまく見抜いてほしい。逆
にキーアイディアが生まれれば論文相当の成果が出せる。タイトル、アブストラクト、イ
ントロダクション、本文、結論この中からキーアイディアをうまく抽出する。そして、著
者の腕の見せ所である、いかにうまく問題を解いたかを読み取ってほしい。結論で、完全
にうまくできたのか、やり残したことがあるのかなども見てほしい。それらを頭に入れた
上でもう一度見ると、分かりにくかったはずのところがすっきり理解できることが多い。
よい論文は、ちゃんと起承転結が整っている。そのスタイルを頭に入れ自分が論文を書く
ときの参考にするとよい。
論文等の中の参考文献の項に載っているものに着目して欲しい。文献を読む度にこの部
分を見ると、別の本であるにもかかわらず同一の文献や著者が引用されているのに気がつ
くだろう(また、論文の載っている学術誌を出典というが、それも大体重要文献が出るも
のはきまっている)。オリジナルでよい仕事はそれ程は多くないものである。よい論文は
ちゃんと引用するに足る文献を引用している。また、論文のIntroductionの部分はなまじ
の解説論文より簡潔に技術の最新動向と要点をまとめている。これはと思った文献が引用
している文献はよい文献と思ってよい。一旦自分のねらいに近いものが見つかったら、そ
の文献が引用している論文を入手し、さらにそのまた文献が引用している文献を入手する
というように次々といもずる式に見ていく。その著者の名前(あるいは同一グループのメ
ンバー)に着目して、そこに引用されているものだけをたどるのもよい(著者の名前やそ
の属している組織を記憶に留めるとかなり役立つ)。このようにするとその分野の大部分
がカバーされる。やや古いものはこうしてたどれば主要文献にはアクセスできる。最新の
ものは、関連学会の解説論文に引用されているものをたどればよい。または自分のねらい
に合った最新原著論文(論文誌、研究会資料などより)からたどるのもよい。網羅的に調
べるには学術雑誌の総目次(1年に1回記事となっていることが多い)や学術講演会、国
際会議の目次を見るのがよい。またCVIU (Computer Vision and Image Understanding)誌
に年1回研究テーマを分類し、欧文でアクセスできるほとんど全部の論文のリストが載る
(A.Rozenfeldによる労作)。当然だが、新しい文献から出発してたどっていくと基礎文
献が引用しているものに再度出会うはずである。ある意図のもとに、相当真剣に探しても
何も該当するものがない場合、がっかりすることはない。今考えていることがほとんど誰
も思いつかなかったオリジナルなものである可能性がある。もっとも考える必要もない程
ばかばかしいものかも知れないが(ただしばかばかしいと言って捨ててしまったことが運
命を分けることがある、研究では何事にも捕われないことが必要である)。このような過
程で論文を読みながら自分の考えを深めていくのがよい。論文を読むのは物知りになるた
めではなくて、よい着想をつかむきっかけを得るためだということを覚えておいて欲しい
。このような過程で、ふと気がつくと今まで誰も考えていなかったアイディアに到達して
いることがある。これが論文を読むことの醍醐味である。
サーベイ作業に並行してパソコンの上に文献データベースを作ることを勧める(余談だ
がファイルメーカに習熟すると、とても便利である)。文献の入手は、図書館に行けば外
部からも取寄せてくれる。費用が若干掛るが研究室負担としてよい。
文献について
関連学術誌等は:
電子情報通信学会論文誌D-II、情報処理学会論文誌、ロボット学会誌、計測制御学会誌
、電気学会論文誌D、人工知能学会誌、IEEE Trans. PAMI, Computer Vision and Image U
nderstanding, Pattern Recogintion, Machine Vision and Application, International
Journal of Computer Vision, 情報処理学会コンピュータビジョンとイメージメディア
研究会(CVIM)資料、電子情報通信学会パターン認識・メディア理解研究会(PRMU) 資
料、映像情報、画像ラボ、電子情報通信学会全国大会予稿集、情報処理学会全国大会予稿
集、ロボット学会学術講演会、SICE学術講演会、コンピュータビジョン国際会議(ICCV)
、パターン認識国際会議(ICPR)、人工知能国際会議(IJCAI)
欧文文献も敬遠せず、図表位は見て欲しい。
ネットでの情報検索について
インターネット等を活用すると有用な情報を迅速に手に入れられることがある。初心者に
ありがちなパターンについて注意。論文や本はそれなりの手順で作られているので、信頼
性や系統性について一定の範囲に収まっているし、検証もしやすい。半面迅速性には欠け
るし計算機との親和性は悪い。ネットで検索すると、極端に言えばゴミの情報も含めて山
のようにデータが集積される。しかし当面している問題に即して役立つ情報がきちんと求
まる保証はない。同じキーワードでも分野や状況が違えば全く別の意味となることもある
。またネットでは自由に発信できるので、誤解に基づく誤りの情報もいくらでも発信され
ている。ネットの発信動機は悪くいえば自己宣伝であることが多いから、厳しい批判に耐
えうる情報である保証はない。情報の信頼性を自分なりに判断できなければゴミしか得ら
れないと考えるべきである。論文、本できちんと情報収集できる能力を前提にネットを利
用すべきである。また、その分野についてのキーワードを正しく理解していることも重要
である。論文等で役立つ探し方として、著者名やグループに着目して探す方法があるが、
ネットでもこの方法は比較的手堅い。過去によい仕事をした著者やグループは現在も活躍
してその後の発展をなしていることが多いからである。またよい仕事をしている著者やグ
ループにはよい情報が集まっていることが多い。
研究必須アイテムについて
別に記す研究必須アイテムはできるだけ早く自分のものにするよう心掛けて欲しい。多少
自分の常識と異なるものや、手持のものでまかなえると思えるものもあまり勝手に捨てな
いでやってほしい。それなりの教育的意図のあるものだから。基礎的な手順(例えば画像
ファイルデータへのアクセス、画像データの計算機上の処理、XWindow環境への表示)は
共通するので、演習段階では片はしから取組み、習熟するとよい。さらにそれを支えるUNIX環境やネットワーク環境への習熟も重要である。研究テーマを考えているとき並行して
必須アイテムは必ずものにしてほしい。また、これらについて自分がマスターするだけで
なく後輩の指導ができるように心掛けること。大学院生以上で必須アイテムの指導ができ
ないようでは怠慢といわれても仕方がない。
道具作りについて
オリジナルな仕事はそのためのツール(道具)作りからはじまる。オリジナルなツールを
得たらそれだけでオリジナルな仕事ができたも同然とも言える。何もないところへ顕微鏡
、望遠鏡、X線装置などを作り出した状況を考えて欲しい。手元にないものは自分で作る
ことになることが多い。このとき研究がいかにあるべきかよく考えて行うと、その過程か
らよい着想が生まれることがある。可能なものはできるだけモジュール化し共通に使える
ようにして、次の世代がさらなる発展の基礎にできるようにして欲しい。このようなもの
をイントラネットの形でWebブラウザでアクセスできるように心掛けるのがよいだろう。<
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物作りの難しさと楽しさの視点から
当グループが追及するのはビジョン処理である。これは単なる画像処理(といってもほと
んど無定義語に近いが)とは異なり3次元、知識処理などの概念を含む。ビジョン処理も
工学の一部門であるから、物作りの視点が大切である。ある研究によって一つの手法がで
きたら一つの装置ができたのと等価である。ビジョン処理は結局は人間がモデルである。
その目で性能を比較してみよう。物作りはいくつかの部品の組立てによってなされる。現
在の技術ではかなりの部分がソフトウェア的なものと言える。既存の技術をかなりに使っ
ても中心部は自分で作ることになる。ある意味で大きなソフトウェア製品作りが難しくと
も面白い。この視点からソフトウェア作りに強くなろう。理論中心の研究にありがちなの
は、計算機の利用が単なる数値計算にとどまっていて、計算機科学の最新の成果がどこに
も生かされていないことである。例えば、大量の均質の計算だけを計算機に期待するのは
、近代的な計算機をよく理解して最大限に生かしているとは言えない。プロブレムソルビ
ングとかAIなどに関心を持ってもらいたい。実はビジョンはAIのまっとうな生みの親の一
つであり、AI技術の大きな適用分野でもある。ロボット技術もビジョンの大きな関連分野
で、リアルタイム計算やハードの制御の視点で見ても面白い。
グループの発展に向けて
研究はまったく個人ベースでなされるものもあるが、広い意味でグループで行う方が効率
がよい。大きな意味で志を同じくするグループ内で互いに切磋琢磨、協力しあって相乗効
果を生むからであろう。まともな研究を行うにはよい研究環境を整える必要がある。これ
は自ら整備するのが基本である。また、実験設備、計算機などの維持管理には手間が掛か
る。積極的に関わって、自分の研究環境をよくするだけでなくグループとしても発展でき
るようにしよう。各自が少しずつグループに貢献し自分もメリットを受けよう。自ら属す
るグループの研究環境を十分活用していない人はこのグループにいるメリットを放棄して
いるに等しい。一番重要なのはよい研究を行って、その成果をつぎの発展に生かせるよう
にすることである。後輩の指導も大切である。大学では人の流れが速いので、ちゃんと色
々なものを蓄積し受け継ぐようにしないといつまでたってもグループが発展できない。各
自は自分が技術を身に付けるだけでなく後輩に受け継ぐように心掛けて欲しい。研究必須
アイテムはこのような観点からも見て欲しい。なお、当グループでは技術指導と研究指導
は区別する。研究指導とは、研究の方向性とその取組方の骨子に関わることである。これ
については必ず指導教官の下で行うのを基本とする。
研究必須アイテム
・画像処理関連の基本的プログラムの演習
相関
拡大
ラベリング
2値化、エッジ抽出
ヒストグラム
最小2乗直線のあてはめ
Hough変換
ソート
・UNIXコマンドの習熟
whoami, pwd, ls, cd, mkdir, cat, more, cp, mv, rm, ln, man
ps, kill, kbd_mode -a -e, clear_colormap
emacs(mule)
Xwindow
make
mail, mnews(rn)
リダイレクション、パイプ
grep, od, wc, sed, awk
xwd, convert
・リモート処理
telnet, ftp, rsh, Xwindowのリモート使用
・デバガ dbx
・画像入力
・文書処理 LaTexまたはQuark Express
・情報収集
学会論文誌等に親しむ
文献検索、web検索
文献取り寄せ
・基礎教科書の通読(最低3冊位)
・学会活動
会員となる
全国大会聴講・発表
研究会聴講・発表
論文投稿
・画像処理関連のキーワードの理解
・画像処理の基本技法を計算機の上で実現できるスキル
・言語レベルで(c言語を用いて)できる処理の習熟をはかる(特にヘッダファイルの活
用や既成ルーチンとの結合、デバッガ、makeの活用など)
・sunrasterfile形式データの処理に習熟
・X-windowの上で画像データの表示、インタラクティブに動くプログラムを作れるように
する
・何らかのオリジナリティをコンピュータビジョン/画像処理の分野を通して発揮する
・卒論全般を通して計算機関連のハード、ソフト全般への大まかな理解を得る
・UNIX、ネットワーキングへの親しみと理解
・計算機の動向をキャッチする能力
・計算機の最新技術を理解する能力
・問題発見能力
・問題解決能力
・情報収集能力
むすび
研鑽・切磋琢磨してよい成果をあげてください。
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