「言葉」     

今から十数年前の事であったが,初めて日本に来て、教室の医局会で自己紹介をした。その時、教授から「趣味は?」と尋ねられたところ、「趣味」という言葉の意味がまだ理解できず、すぐ「口腔外科」と答えてしまった。「君!人を切るのが大好きなのですね、変な趣味ですね。」と笑われてしまい、その後しばらくの間、日本語を話すことができなくなった。今でも診療中に、時々、中国語を喋り出してしまう事があり、患者さんの驚いた顔を見て、「しまった!」と思うことが何回もある。

五年前の正月、シンガポ−ルに遊びに行った時、日本人の団体に中国語が話せる人がいたので、向こうの方をびっくりさせた事があった。またある晩のこと、急にお腹が痛くなって、公衆トイレにかけこんだところ、トイレットペ−パ−がなかったため、トイレットペ−パ−を売っていた女の人に日本語で話し掛けた。相手が分からない様なので、こんどは中国語で話したところ、「中国語が出きるのに何故日本語を喋るのですか!変な人ですね!愛国心…。」延々三十分にわたり説教された。僕はただズボンを持ったまま何も言えなかった。

去年の十月に「世界仏教信者大会」がカナダのトロントで開かれた。その時は、参加するために一人で行ったところ、カルガリ−の入管にひっかかり、私はいろいろと質問された。最後に「何で歯医者をやりながら、このような大会に参加したのですか?」私は「何であなたは入管の仕事をやりながら、キリスト教を信仰しているのですか?」と尋ねた。そしたら「ポン!ポン!」と手を叩き、「May you have a good time!」と言われ、握手をされた。

「言葉」というものは大変面白いものですね。