混声合唱組曲
柳河風俗詩
作詩 北原 白秋 作曲 多田 武彦
梅雨の晴れ間
廻せ 廻せ 水ぐるま
けふの午(ひる)から忠信(ただのぶ)が
隈取(くまどり)紅い(あかい) しゃっ面(つら)に
足どりかろく 手もかろく
狐六法(きつねろっぽう)踏みゆかむ 花道の下
水ぐるま・・・・・・
廻せ 廻せ 水ぐるま
雨に濡れたる古むしろ
円(まる)天井のその屋根に
青い空透き 日光の
七宝(しっぽう)のごときらきらと
化粧部屋にも笑ふなり
廻せ 廻せ 水ぐるま
梅雨の晴れ間の一日を
せめて楽しく浮かれよと
廻り舞台も滑(す)べるなり
水を汲み出せ 平土間(ひらどま)の
田舎芝居の菲畑
廻せ 廻せ 水ぐるま
はやも昼から忠信が
紅隈とった しゃっと面に
足どりかろく 手もかろく
狐六法踏みゆかむ
花道の下 水ぐるま