川崎洋の詩による五つの混声合唱曲
やさしい魚から

作詩 川崎 洋  作曲 新実 徳英

感傷的な唄

風が吹くから
生きよう
そう思う前に
もう足が駆け出していた

風が吹くから
見えないものを
信じることができた

不意に思い出す
トンボがつながるときの
カシャ という音

小鳥の歌に
人間の歌で返事しよう
と思ったときのこと

体温計のケースに
しのばせて
手渡そうとした恋文は
とうとう渡せないまま
あれから
どこへ行ったのだったか

唄好きな蝶番は
他の星から飛んできた風船と
よく話をしていたし
位の低い神様のベンチには
主題のない招待状が
陽に光っていた

死んでしまって
肉体もすっかり滅びても
私の
もう此の世のものではない耳に
美しい歌だけが聞こえてくる
そんな祈りが
もしかして
適えられないだろうか

この曲はN.U.さんからリクエストがあったので
急遽作りました。