混声合唱組曲
春のために

作詩 大岡 信  作曲 信長 貴富

U.春のために

砂浜にまどろむ春を掘りおこし
おまえはそれで髪を飾る おまえは笑う
波紋のように空に散る笑いの泡立ち
海は静かに草色の陽を温めている

おまえの手をぼくの手におまえのつぶてをぼくの空に ああ
今日の空の底を流れる花びらの影

ぼくらの腕に萌え出る新芽
ぼくらの視野の中心に
しぶきをあげて廻転する金の太陽
ぼくら 湖であり樹木であり
芝生の上の木漏れ日であり
木漏れ日のおどるおまえの髪の段丘である
ぼくら
新しい風の中でドアが開かれ
緑の影とぼくらとを呼ぶ夥(おびただ)しい手
道は柔らかい地の肌の上になまなましく
泉の中でおまえの腕は輝いている
そしてぼくらの睫毛の下には陽を浴びて
静かに成熟しはじめる
海と果実